【Live Report】
フジファブリック 15th anniversary SPECIAL LIVE at 大阪城ホール 2019「IN MY TOWN」
2019年10月20日 at 大阪城ホール
フジファブリックが10月20日に開催したライヴ〈フジファブリック 15th anniversary SPECIAL LIVE at 大阪城ホール 2019「IN MY TOWN」〉。大阪城ホールでワンマンライヴを開催するのは、フジファブリックにとって初めてのこと。それだけで胸の高鳴りは加速する一方だが、特筆すべきは、この会場でライヴを行うのはヴォーカル・山内総一郎のかねてからの夢であったということだ。十代の頃、大阪城ホールで開催されたライヴを観に行った時、ステージと自分がいる場所との距離の大きさに衝撃を受けたこと、ミュージシャンを志した日からずっと立ちたかったステージであったこと——約1年半前、彼はそんなふうに大阪城ホールへの強い思いを明かしながら、同公演の開催を発表した。そして、満を持してその日はやってきたのだ。
夢の大舞台でも、彼らはいい意味で普段通りだった。もちろん、緊張感が伝わる場面があったり、会場の大きさを活かして映像で観客を沸かせたりと、いつもの彼らのライヴでは見かけないよう光景がいくつもあった。しかし、ゲストを呼び込むわけでもなく、あくまで楽器を鳴らし、歌を唄うことで勝負する。そんなふうに、等身大の自分たちで勝負に挑むところや、音楽に対して誠実な姿勢は普段の彼らと何ら変わらない。
開演時間である17時過ぎ、1曲目に鳴らされたのは「若者のすべて」だ。〈夕方5時のチャイムが 今日はなんだか胸に響いて〉——そのフレーズとリンクさせて、1曲目に持ってきたのだろうか。その芸の細かさに高揚しつつも、改めてこの曲の存在の大きさを痛感した。周年イヤーである今年、この曲をテレビ番組やCMなど、さまざまな場所で耳にする機会が多く、その度に反響が大きかったことを鮮明に覚えている。この曲を通じてフジファブリックというバンドに出会い、彼らに魅了され、大阪城ホールに足を運んだ人も多かったのではないだろうか。9000人近くの人々が灯すペンライトのあかりを見つめながら、ぼんやりとそんなことを考えていた。続いて披露されたのは「はじまりのうた」。煌びやかな金テープが空中を舞い、会場の祝祭感はいっそう色濃いものになっていった。その後は「Green Bird」「SUPER!!」「星降る夜になったら」「オーバーライト」と心が跳ねるようなサウンドを展開。彼らが嬉しそうに演奏していると、こちらまでつられて笑ってしまう。今日という日を迎えられたことが、まるで自分のことのように嬉しくて、泣けてくるのはなぜなのだろうか。
「紹介させてください、志村正彦!」と山内が切り出し、バンドの創始者である志村正彦を改めて紹介した。彼との思い出話に花を咲かせる中、金澤は「志村の音楽性や才能は今も尊敬してるし、音楽にDNAがあるとするなら、それは僕の中にも刻まれている」と語っていたが、それはこの会場にいる人たちも、みんな同じ気持ちではないだろうか。この季節、鼻を掠める金木犀の香りに、彼の存在を思い出さずにはいられなかった。だから、このあと披露された「バウムクーヘン」と「赤黄色の金木犀」は、いつも以上に心に突き刺さるものがあった。志村は、フジファブリックを愛する人々の心の中でずっと生きている——その思いを抱きながら聴いた「ECHO」では、山内のギターに思わず圧倒された。彼の中にある感情という感情が全て乗った音は、まるで生きているようだった。しばらく放心状態が続いたのは、きっと自分だけではない。
まさかのお色直しを挟んだあとは、センターステージへと移動し、3人だけのアコースティック編成で「ブルー」「ハートスランプ二人ぼっち」「透明」を披露。シンプルなサウンドに酔いしれつつも、「大阪といえばこの曲!」と『探偵!ナイトスクープ』のテーマ曲をチョイスする山内。そんな強い地元愛に対して温かい気持ちが湧き上がってくると同時に、聴きなじみのあるあのイントロには思わず笑ってしまった。さらに、ここではライヴの定番となっている加藤の謎かけも披露。観客からその場でお題を募ったにもかかわらず(ちなみにお題は〈たこ焼き〉に確定)、パッと回答が閃くだけでなく、笑いの本場・大阪で感嘆の声を上げさせてしまうのは流石としか言いようがない。
会場のグルーヴは、時間が経つにつれて、より強固なものとなっていく。「Feverman」では山内の指揮のもと、観客も踊りに挑戦。山内は「一緒に唄ったり踊ったりすると印象に残る」と語っていたが、まさにその作戦は成功したようだ。いまだに楽しそうに踊る観客の姿が、頭から離れない。フジファブリックのライヴを一度でも観たことがある人ならわかると思うが、彼らのライヴは年齢も性別も問わず、会場にいる人を1人残らず幸せな気持ちにさせてくれる。「LIFE」以降の終盤は、特にそれが如実に表れていた時間だったように思う。そして、本編ラストに披露されたのは「手紙」。故郷への思いを綴った、山内にとっても大切な曲。そのことをファンもわかっているから、全員がペンライトを振っていた手を止めてジッと聴き入っていた。それは、1人の男の夢がみんなの夢へと変わった瞬間だ。
アンコールでは、山内の弾き語りによって新曲「Present」を披露。「来てくれた人に贈り物ができないか」と考えた末に、この曲は生まれたという。アコギとメトロノームだけが響きわたる静かな空間の中、一つ一つの言葉を大切に紡ぐ山内。優しくも力強い歌声からは、来場者への感謝がこれでもかというくらいに伝わってくる。と同時に、「むしろ、お礼を言いたいのはこちらのほうだ」と強く思うようになった。彼らの曲、ライヴ、メンバーの人柄……挙げたらキリがないが、フジファブリックというバンドから生み出されるものを通じて、数えきれないくらい感動や気づきをもらってきた。そんな時間が、ずっと続けばいい。この世に永遠というものはないことを承知の上で、淡い願いを抱くこともあった。しかし、この大阪城ホール公演を通じて、そんな未来も夢ではない気がした。ステージ上の彼らからは、この場所で公演できる喜びとともに、これからも走り続ける決意みたいなものが何よりも強く滲んでいたのだ。きっと、彼らならまた新たな夢を見させてくれるはず。
その後、金澤と加藤、玉田もステージへと現れ、全国ツアーやバンド史上初となる〈金澤ダイスケ生誕祭〉の開催を発表した。歓喜に沸くファンの前で、彼らの始まりの曲である「桜の季節」、そして「会いに」「破顔」が披露され大団円。大袈裟でもなんでもなく、この日、世界で一番愛に溢れていた場所は大阪城ホールだ。そう言い切れるほどに、とても温かな時間だった。公演からそれなりに時間が経ったというのに、いまだに余韻が醒めないどころか、思い出すたびに何とも言えない幸福感に包まれて、このバンドに出会えた自分に生まれて良かったとさえ思えてしまう。
大人になるにつれて、自分に都合のいい言い訳をして、夢を持つことを諦める瞬間があるだろう。そもそも、夢を持つことも、夢を追い続けることも容易ではない。しかし、フジファブリックは身をもって夢を持つことの素晴らしさを教えてくれた。
「夢よ叶え!聴かせておくれよフジファブリック!」
これは、2008年に志村正彦の故郷である山梨県・富士吉田市でライヴが開催された際、会場のそばにある月江寺駅に貼り出された横断幕に書かれていたメッセージだ。時を経て、改めてこの言葉が心に響いた。フジファブリックは、なんて夢のあるバンドなのだろう。
『音楽と人』12月号(11/5発売)では、同公演の密着記事を掲載。ステージの裏側から詳細なライヴの模様まで、徹底レポートします。乞うご期待。
文=宇佐美裕世
写真=渡邉一生 、森好弘
【SET LIST】
01 若者のすべて
02 はじまりのうた
03 Green Bird
04 SUPER!!
05 星降る夜になったら
06 オーバーライト
07 バウムクーヘン
08 赤黄色の金木犀
09 ECHO
10 ブルー(Acoustic)
11 ハートスランプ二人ぼっち(Acoustic)
12 透明(Acoustic)
13 LIFE
14 徒然モノクローム
15 Feverman
16 東京
17 STAR
18 手紙
ENCORE
01 Present
02 桜の季節
03 会いに
04 破顔