【Live Report】
GRAPEVINE FALL TOUR Extra Show
2019年10月1日at EX THEATER ROPPONGI
(※写真は中野サンプラザ公演のものです)
2019年はグレイプバインのライヴを3回観た。
ふと思い返してみると、ここ数年はだいたいそれくらいのペースで観ている気がする。ツアーを広島と東京で2回、あと〈club circuit〉や特別なイベントで1回、みたいな。コンスタントといえばコンスタント。非日常と言うほどでもなく、行きつけの呑み屋に足を運び、いつもの定番と旬のものをちょっといただき、「ああウマ」としみじみ味わう感じに近いというか……うむ、じじむさい。でもそういう“俺だけの寄り道”があるって幸せなことではないですか。マスターおあいそ。
ステージで田中和将は「今年はいっぱい働きましたので、そろそろ店じまいですわ」的なことを言っていたので考えてみると、確かに彼ら今年はいっぱい働いていたのである。2月にホッピー神山プロデュースのアルバム『ALL THE LIGHT』を発表。16枚目という気の遠くなるような枚数とは裏腹に、マッドサイエンティスト(=ホッピー氏)の登用でやけにスッキリした内容に。アルバム直後に〈SOMETHING SPECIAL〉なる対バン企画。相手は話題沸騰のニューカマー・中村佳穂ということでいてもたってもいられず、3月1日@マイナビBLITZ赤坂で観たのが今年の1本目。アンコール、佳穂ちゃんとやった「KOL(キックアウト ラヴァー)」のなんとみずみずしかったことか。そこからアルバムツアー、今年の鑑賞は6月9日の広島クラブクアトロのみ。この日、広島は「とうかさん」という浴衣まつりで、それをMCでいじってスベっていた田中の姿が印象深い。ツアーは4~6月いっぱい続き、夏はフェス、そして9月は〈FALL TOUR〉をやるという。東名阪3本のホールツアー。ホールでバインという年配者にありがたい采配に再び「行かねば」の心が頭をもたげるが、所用があって結局来たのは追加公演の10月1日@EX THEATER ROPPONGI←今ココ。うん、確かに今年はいっぱい働いている。だが、それをいっぱい働いている風に見せないのもまたバインである。
さて、この初めて耳にする〈FALL TOUR〉、一体何をやるんだろうと思っていたが、バインファン的に言えば〈club circuit〉に近い感触ということになる。つまり新旧関係なくオールシャッフル。どっから何が飛び出すかわかりませんツアー――ということで、メンバーの性格を多少なりともご存知の方なら、これが「そんな曲あった!」「ここでソレやる!?」といった地味曲、シブい発掘曲、味わい深いスルメ曲の再発見大会になると直感するのは必至なワケで、だって1曲目から「Chain」(from『ROADSIDE PROPHET』2017)→「想うということ」(from『Here』2000)→「ランチェロ’58」(from『From a smalltown』2007)→「Glare」(from『Sing』2008)。もうね、「どうだ!」って感じじゃないですか。グレイプバイン、いい曲いっぱいあるだろっていうか、シングルとかそうじゃないとかどーでもいいだろっていうか。しかし改めて眺めても、この4曲の並びはスゴイな。よっぽど性格がツイストしてないと、この並びは組めませんよ(褒め言葉)。
そしてワタシはこの〈club circuit〉的オールミックスライヴが大好きである。不意打ちでよみがえるあの曲のスバラシサ。「リリース時はそれほどでもなかったけど、いま聴くとめっちゃいいじゃん!」という十年殺しのキラーチューン。まったく、これだけマイペースに過去曲を再評価させるバンドも珍しい。「MAWATA」の突然パーカッション、「Shame」の国際情勢は今やより切実で、「Scarlet A」はもしや新・朝ドラに対するバイン流の秋波なのか、「COME ON」の疼きグルーヴは大人ならではのいやらしさ、「インダストリアル」半音上げて~、で、個人的に一番ビックリしたのは「Asteroids」。シンプルかつ奔放な西川ギターの鳴り。最新作でもまったくノーマークでしたごめんなさい! 曲は日々の天候、曲の並び、演る方聴く方のコンディションで生き物のように表情を変えるが、会場でひとつでも琴線に触れ、心の中に残ってくれれば幸いである。
ステージ上の田中はここ近年そうであるように、どこか上機嫌である。「増税後の世界へようこそ。2%ぶん多めにサービスします」「この9月からデビュー23周年に入りました。23周年ツアーです」など快調にタワゴトが口を突いて出る。会場を見ると往年のファンはもちろん、若いファンや男性ファンの姿も目立ち、中村佳穂との対バンや『ALL THE LIGHT』でのフレッシュかつソリッドな立ち姿が新たなリスナーの元にも届いたことを感じさせる。
それはバンドにとって理想的な状況のようにも思うが、開演前に田中に会うと「今回のツアーはメニューをそれほどいじってないからモチベーションを上げるのが大変で」と相も変わらず辛気臭い。でもそれも真実なのだろう。現実的に23年バンドをロールさせていく力学はわれわれ外野が思うより大変なのであろうし、しかしそれ以外の道は結局見えないのであるから、やるならやるで涼しい顔してそれをやり切るのが大人のバンドマンってもんである。
「Alright」の途中、田中は突如客席を誘うようにクラップを始め、棒立ちしていたオーディエンスも弾かれたように手を打ち始めた。20年前、10年前……いや5年前でもなかっただろう光景を田中は“プレイ”の一環と呼ぶのかもしれないが、それをエネルギーにバンドはもうひとつ高みに昇ろうとしているように見えた。さっき言ったことと真逆になるが、もはやなりふり構っちゃいられない。“次”が存在するかどうかもわからない。いま確かめておかなければならないことのすべて。いま伝えておかなければならないことのすべて。
本編ラストは飾りのない「Era」。そしてアンコールで唄われる「Arma」。発表から2年、個人的には「Arma」の持つ波及力はどんどん強大化している気がするのだけど、うーん、これは今の理想の希望のアンセムだな。やっぱり未来はこうでないとな……と思った途端にはたかれるアタマ。本日の〆は20年前、同じ希望でもヤンチャ華やかなりし頃に作ったシニカルな希望ソング「HOPE(軽め)」。〈あけすけになるのもどうかと思うが〉。まったくもってそのとーり!
冷笑赤心、入り乱れて、さあ今の気分はどっちだろう? まだまだ行けそうなグレイプバイン、来年も3回くらい観たいなって思うけど、え、ほんとにもう年内終了!?
文=清水浩司
写真=藤井 拓
【SET LIST】
01 Chain
02 想うということ
03 ランチェロ’58
04 Glare
05 MAWATA
06 Shame
07 すべてのありふれた光
08 Scarlet A
09 COME ON
10 インダストリアル
11 Asteroids
12 豚の皿
13 SEA
14 楽園で遅い朝食
15 真昼の子供たち
16 BLUE BACK
17 指先
18 God only knows
19 Alright
20 Era
ENCORE
01 覚醒
02 光について
03 Arma
04 HOPE(軽め)
※Apple Music、Spotifyにてプレイリストを公開中