chelmicoのセカンドアルバム『Fishing』。自分たちにとって名刺代わりと言っても過言ではない、ライヴ映えする曲満載の前作『POWER』に比べると、落ち着いたサウンドの曲が目立つ本作。飛ぶ鳥を落とす勢いで驀進中の彼女たちだが、そのスピードに流されず、長く愛される作品を作りたい――そんなねらいのもと誕生したのが本作なのだろうか? そんなことを考えつつ気になったのは、資料に記載されていたRachelのコメントである。「音楽との距離が近くなった感じ」「今音楽とラブラブって感じです」。この発言の真意を探るべく、インタビューを敢行。2人に話を聞くのはおよそ1年ぶりであったが、その間に彼女たちの音楽に対する向き合い方で変化が起きていたようだ。一方で、2人の絆の強さは健在。思い返せば1年前、2人に話を聞いた時も素で仲が良いことに妙に感激した記憶がある。音楽だけではなく、Rachel とMamiko、2人の距離もまたいっそう近くなっていた 。
前回のインタビュー(註:『音楽と人』2018年9月号掲載)から、chelmicoの曲を耳にする機会が本当に増えたなと思って。YouTubeで動画を見ようとしたら、広告でも2人の曲が使われていたり。爽健美茶のCMやテレビでも――Mamikoさんは『タモリ倶楽部』にも出演してましたね。
Mamiko「あはははは! ビックリしましたね」
知名度が上がってることについて、実感としてはいかがですか?
Mamiko「『爽健美茶』のCMの放映前後で一番変わった気がします。みんなが知ってる商品なので、そこから知ってくれた人が本当に多くて。嬉しいよね」
Rachel「うん。あと安心できるよね。フェスだと私たちの観方がわからない人もいると思うから。でも、あのCMがあったことで〈ああ、『爽健美茶』の子か〉って認識してもらえて。本当にあの曲に引っ張てもらって来たなっていう感じで」
充実っぷりが半端ない中リリースされた『Fishing』ですが、長く聴き込める作品になったんじゃないかなと。
Rachel「嬉しいねぇ……そういうふうに作ったもんね」
Mamiko「うん。ちゃんと届いてよかった。今作では新しいことにも挑戦したりして――例えば〈BEER BEAR〉では物語を作ってみたり、〈Bye〉にはゴスペルを入れたり、〈12:37〉っていう小袋くん(註:小袋成彬)とやってるやつは、ほぼほぼ唄ってるとか。やっぱり1枚目とは違うchelmicoを見せたかったので。それを踏まえた上で2枚目はどうするかってなった時に、じっくり聴かせられるような、歌詞カードを読みたくなるような曲とか、それこそ長く愛されるようなアルバムにしたかったんです」
あと、資料に気になるコメントがあって。Rachelさんの「音楽との距離が近くなった感じ」っていう発言ですが、これはどういう意味ですか?
Rachel「なんか、曲を作る行為そのものが自分にとって普通のことになってきたっていうか。前までは作るぞ!って気合を入れていて……。まだ曲作りに慣れてない自分がいたのかな。でも、今回のアルバムはまみちゃんとこういう曲を作りたいっていうゴールがはっきり見えてて、それに向かってどうすればいいのかってことを、自分たちで話し合って見出すことができるようになってきて。意思の疎通がとれるようになってきたっていう意味で言いました。前までは訳もわからず模索してたけど、今回はかなり決め打ちでできるようになってきて」
今作は大人な雰囲気の中にも、どこか鬱屈とした気持ちを楽にさせてくれる部分もありますよね。「BEER BEAR」の歌詞にもありますけど、〈明日は辛い/だから飲んでる〉みたいな。嫌なことから逃げるんじゃなくて、受け止めつつも日常の中で楽しいことを探していこうっていう2人の明るさとか、本質的な部分が見えてくる曲でもあるなと思って。
Rachel「ああ、確かに。現状を打破しよう!ってものすごく意気込むタイプでもないし。諦めというか……諦めじゃない(笑)」
Mamiko「はははははは」
Rachel「ちゃんと受け入れる力もある!(笑)。その中で楽しさを見つけていく部分は反映されてるかもしれない。うちらが言いたいことを、BEER BEARっていう架空のキャラクターに言わせてるというか」
あと、自分たちの意思をちゃんと確立している感じも歌詞から伝わります。「仲直り村」の〈言葉にするのやめたら/やっぱそれは違うな〉とか〈私が決めた 今決めた 寒くないよ〉とか。自分がこうだと思ったらこうなんだよっていう。我が儘というわけではなくて、いい意味で我を通せる強さが感じられるというか。
Rachel「確かに。あんまり人の顔色を伺わなくなったね」
前までは伺ってましたか?
Rachel「自分たちが好きなことをやってればいいと思いつつも、やっぱりメジャーデビューを経て、どういうふうに受け入れられるかっていう不安とかプレッシャーがあって。でも、今はまあいっかって思えるようになってきて(笑)。思ってることははっきりと言うようになってきた気がする。あと、他の部分でも自分たちが進化していることを感じられるようになってきて」
どういうところで進化を感じますか?
Rachel「自分たちのラップの動画とかを見れるようになったんですよ」
Mamiko「前は恥ずかしくて見れなくて」
いつ頃まで見れなかったんですか?
Rachel「けっこう最近ですね」
Mamiko「昨日やっと見れたぐらいじゃない?」
Rachel「それはちょっと盛ってますけど(笑)。でも本当にそのぐらい最近で。頑張って見るんですけど、できれば見たくないなぁってどこか避けてて……。今は積極的に『どうだった!?』って周りの人に聞いたり、動画を見て反省するっていうことができるようになってきて」
Mamiko「そうだね。あとはいろいろな曲を聴くようになって、その度に歌詞を前よりも見るようになって、言葉遣いとか共感できるポイントっていうのをすごく考えるようにしてましたね。どんどん音楽のことを好きになってるんだと思う。もともと好きだったから、それをやることもまったく苦ではないし」
今Mamikoさんが話したことは、資料に書かれてるRachelさんのコメントの「今音楽とラブラブって感じです」とすごくリンクしてるなと思って。2人とも無意識に音楽との距離が近づいてきてるんですかね。
Rachel「あ、本当にそう。2人とも同じ感覚なんだと思う」
Mamiko「そうだね。気持ちが一緒じゃないと、どこかが崩れてきちゃうと思うし」
2人の関係性が崩れるのって想像つかないですけどね。
Rachel「そうですね。本当に尊敬してるんで、まみちゃんのことを。最近思ったこととか、日常のことも逐一話すようにしてるし。話さずにはいられないっていうか、聞いてよー!ってつい話しちゃう。それはずっと2人が変わらずにいられる秘訣なのかもしれない。今のとこ出会って7年目なんですけど、あんまり変わってないね。あんまりっていうか、全然か」
Mamiko「うん」
ちなみにお互いのどんなところを尊敬してますか?
Rachel「なんだろう……でも、その時その時でけっこう変わるかな。例えば、制作してる時だったら頑固なところとか、ブレないところがカッコいいって思うし」
Mamiko「うーん、Rachelの場合は正直なところですかね。何事に対しても素直に喜べるし、怒れるし。普通は歳を重ねるごとに、感情を素直に表現することができなくなってくると思うので」
Rachel「あー、でも最近特にそうだわ……。昨日とかも夜泣きしちゃったし」
夜泣き!?
Mamiko「あははははは!」
Rachel「赤ちゃんって急にエェーン!って泣くじゃん? あれを昨日やっちゃって……(笑)。たぶん横アリ後(註:〈J-WAVE LIVE 20th ANNIVERSARY EDITION〉出演後)で、かなりセンシティヴになってたんだと思う」
Mamiko「でも、それを私はできないのでカッコいいと思います」
Rachel「できないってまみちゃんは思ってるけど、私からしたら、まみちゃんはちゃんと感情を抑えて言葉にしたりとか、自分の振る舞いを考えて責任持って行動できる人だと思うので。逆にそこがカッコいいですね」
気が合う2人ではあるけど、その中で相手にない部分をお互いが補い合えているんですね。
Rachel「ぶっちゃけ、まみちゃんのおかげで私があるという感じですね」
Mamiko「Rachelのおかげで私があるという感じですね」
私の入る隙がなくなってきたところで、終わろうと思います。改めて2人の熱い絆を確認することができてよかったです。
Rachel「ははははは! 結局はそこに着地(笑)」
文= 宇佐美裕世
NEW ALBUM『Fishing』
NOW ON SALE
01 EXIT
02 爽健美茶のラップ
03 ひみつ
04 Navy Love
05 Balloon
06 Fishing (Interlude)
07 BEER BEAR
08 12:37
09 Summer day
10 仲直り村
11 switch
12 Bye
chelmico 公式HP http://chelmico.com/