【Live Report】
yonige
日本武道館「一本」
2019年8月13日 at 日本武道館
yonigeにとって初の武道館公演、「一本」。
そこで目にしたのは、武道館だからといって飾ることのない、いつもと何ら変わらない2人の姿だった。
開演時間である19時、牛丸ありさ(ヴォーカル&ギター)、ごっきん(ベース&コーラス)、そしてサポートメンバーのホリエ(ドラム)、土器大洋(ギター)が登場し、定位置につくやいなや、すぐさま1曲目の「リボルバー」に突入した。会場の規模が大きくなったからといって、特別なやり方で登場するわけでもなく、あくまで普段通りの2人。ストレートにサウンドを鳴らし、音楽だけでぶつかってくる姿勢はこのバンドならではだ。それに、サポートメンバーとして新たに土器を迎えたことで、サウンドに厚みが増している点も素晴らしい。武道館ならではの音の響きも相まって、一音一音が心の奥深くに突き刺さるようだ。その後も間髪入れずに「our time city」「顔で虫が死ぬ」「バッドエンド週末」などを披露し、瞬く間に武道館を自分たちの色に染め上げていった。
「こんばんは。yonigeです。すごい人ですね……。MCで『すごい人』とは言わないようにしてたんだけど……」と、6曲ほど披露したあとでようやくMCに突入。「さすがにすごいな」「すごーい」と、8000人という観衆を前にした感動を素直に呟く牛丸とごっきん。すると、ここでトラブルが発生。なんとホリエの椅子が壊れたという。「いつから壊れてたん? え、〈顔で虫が死ぬ〉? けっこう序盤やないか! 出足くじかれ~!」と焦るごっきんだったが、椅子を修理している間も観客に対して「どこから来たの?」とアンケートを取るなどしてひたすら喋り倒し、無事に間を繋いでいった。ちなみに、この日はMCを3回に抑え、アンコール含めて全22曲がほとんど休む間もなく演奏された。しかも、武道館だからと言ってド派手な演出があるわけではない。「春の嵐」で紙吹雪が舞ったり、「2月の水槽」では水中を彷彿とさせる模様が投影された幕でステージを彩ったりと、大きな会場ならではの演出はあれど、そのどれもが至極シンプルなもの。何なら、衣装も武道館仕様というわけではない。余計な装飾がない彼女たちのステージは、むしろその潔さに思わず痺れた。
そもそも、yonigeというバンド自体に装飾や嘘がない。彼女たちが良くも悪くも嘘がつけないことは、日常や心の内を丸ごと投影したような歌詞を見れば一目瞭然だが、2人の立ち振る舞い自体もそうだ。芝居じみた台詞なんて一切吐かない。自分たちを良く見せようとか、そんな雑念もない。実はこの日も、歌詞が飛んでしまったりといくつかミスがあったものの、誤魔化すわけでもなくその都度「ごめんなさい。間違えました……」とわざわざ謝る姿に、誠実さを垣間見た。2人は言葉数だって決して多くないし、人によってはどこかぶっきらぼうに思ってしまうかもしれない。だが、裏を返せば彼女たちから放たれるすべてが真実なのだ。だからだろうか。別に、2人の人となりだったり、何もかもを把握しているわけではないのに、なぜかこのバンドは信頼できるのだ。その答え合わせを、この武道館公演ではできたような気がする。それに、彼女たちの嘘のない音楽や、2人の存在そのものが、きっと誰かの救いになっているのではないだろうか。ステージ上の彼女たちを眺めながら、そんなことをぼんやりと考えていた。
等身大の自分たちで、音楽だけで真っ向から勝負を挑む2人の姿からは、「一本」という公演タイトルにもあるように、どこか筋の通った勇ましさが感じられた。ちなみに、武道館の改修工事前に行われるバンドのライヴとしてはyonigeがラストだそうだが、ラストを飾るにふさわしいライヴであったのは言うまでもない。
文=宇佐美裕世
写真=太田好治、立脇卓
【SET LIST】
01 リボルバー
02 our time city
03 最終回
04 顔で虫が死ぬ
05 2月の水槽
06 バッドエンド週末
07 アボカド
08 センチメンタルシスター
09 悲しみはいつもの中
10 ワンルーム
11 往生際
12 どうでもよくなる
13 沙希
14 サイケデリックイエスタデイ
15 ベランダ
16 しがないふたり
17 最愛の恋人たち
18 トラック
19 さよならアイデンティティー
20 春の嵐
ENCORE
01 さよならプリズナー
02 さよならバイバイ