『音楽と人』の編集部員がリレー形式で、自由に言葉を発信していくコーナーがスタート。エッセイ、コラム、オモシロ企画など、編集部スタッフが日々感じたもの、見たものなどを、それぞれの視点で読者の皆さまへお届けしていきます。今回は入社2年目の新人編集者によるエッセイ。
社会に出て、音楽と人編集部に入って、もう少しで1年半が経つ。日々、やらなきゃいけないことが増えて、課題に向き合っていると、昔のことなんてどんどん忘れていってしまう。だけど、7月は、自分のルーツというか、この仕事を始めるきっかけを振り返る機会が多かった。
まず、このWEBでもレポートを書かせてもらった、DELICIOUS LABELの20周年記念ツアーを観に行った時、高校時代を思い出した。そのことは原稿でも少し触れたが、高校時代は私にとってとても大きな時期だ。
なんで毎日、教室の中に閉じ込められて、勉強ばかりしなきゃいけないんだろう。もっと世界は広いはずなのにな。ここではない開けた場所に行きたい! そう感じて、苦しくなって、学校をよく休んでいたのが高校2年生の時だった。それまでは、周りから逸脱しないように自分を押し殺して過ごしていたけれど、もう限界だったのだろう。初めて自分の本当の気持ちに気づいた。大人は敵に見えたし、誰の意見も聞きたくなくて、ひとりで闇を抱え込んでしまった。そんな時、唯一、自分のそばで寄り添ってくれたもの。それが音楽だったのだ。そこで、あるアーティストに出会って、その人の曲をたくさん聴いていくうちに、自分と似た部分があるような気がして親近感が湧いてきたのを覚えている。さらに、その出会いは、私にいろんな音楽を聴くきっかけを与えてくれた。学校に行くことよりも、音楽を聴くことのほうがとても楽しくて、TSUTAYAで頻繁にCDを借りたり、とにかく新しい刺激を求めていたと思う。そしてそのアーティストがどんな人なのか知りたくなって、初めて音楽雑誌を手にとった。そこでアーティストとリスナーの架け橋になれる存在がいることを知り、今の仕事に憧れを持つようになったのだった。
今月は、その、いろんなきっかけを与えてくれたアーティストをついに初めて観てきた。ライヴが始まると、理由もなく涙があふれてくる。苦しかった時期の情景が自然と浮かび上がり、当時支えになっていた曲は、グサグサと心に刺さった。あれから時間が経ち、新しい音楽に出会い、他にも好きなものは増えたけれど、それでも自分の根っこに流れ続けているもの。それは自分の中で大切にしまっておきたいと思ったのだった。
今振り返ると、なんであの頃、あんなに悩んでしまったり、苦しかったのか不思議に思えるのも事実だ。でも、あの時がなければきっと、今はない。私は、今、この選択をしたことが正解だったと、100%そう言い切れない時もある。だけど、あの時、音楽が特別だなと感じた瞬間、誰かにアーティストの言葉を届けたいという思いが心に浮かんだ瞬間、そういう最初に抱いた感情はずっと忘れたくないと思う。
この仕事を志してから、4年。奇しくも、このライヴを観た日に、私は22歳になった。あの頃の気持ちを胸に秘めて、もっと前に進んでいかなきゃなと思う。振り返る暇もないぐらい、今は前を見て生きていかないといけないのだ。
文=青木里紗