【Live Report】
DELICIOUS LABEL 20th Anniversary
デリシャス・バンプ・ショウ!!
2019年7月12日 at 川崎CLUB CITTA’
山中さわおが20年前に立ち上げたDELICIOUS LABEL。この節目に、所属するアーティストの新曲や、ヴォーカルチェンジ楽曲を収めたコンピレーションアルバム『Radiolaria』がリリースされ、ツアーも開催されることになった。そのツアー最終日となる川崎CLUB CITTA’に集まったのは、the pillows、noodles、シュリスペイロフ、THE BOHEMIANSという4組。ライヴが始まる直前、ステージに現れた山中が「(このレーベルに)優等生はいない!」と言い放った言葉のとおり、この日の出演バンドは、周りに合わせることや、馴染むことよりも、音楽を好きになったあの頃の気持ちや、そうせずにはいられない衝動に突き動かされて今も前に進み続けている者たちばかりだったのだ。
トップバッターを務めた、ボヘミアンズ。平田ぱんだ(ヴォーカル)が登場するやいなや華麗にジャンプし、「THE ROBELETS」で特別な夜の始まりを告げた。思わず手拍子したくなる「GIRLS(ボーイズ)」で会場を温め、「DELICIOUS LABELっぽくないけど、最後まで一生懸命やります」と宣言した平田。「おぉ!スザンナ」は耳なじみのいいポップなメロディに、ザ・リバティーンズなど、バンドのルーツにあたるUKロックの影響が感じられる。そして楽曲にもステージにもロックンロールに魅了された少年の頃の彼らが見えてくるのだ。平田は学生時代からピロウズのファンだったという。高校生の時、「No Substance」を聴きたくて『LIFE IS DELICIOUS』(註:DELICIOUS LABELのコンピ盤。2001年リリース)をなけなしのお金で買ったこと、そこから18年経った今、憧れのレーベルの一員になれたというエピソードにも、音楽への強い憧れと純粋な気持ちが強く感じられる。そういうものが根っこにあるから、たとえ音楽性がオルタナでなくても、このレーベルらしいバンドだといえるのではないだろうか。最後にピロウズの「No Substance」のカヴァーを披露し、好きなことを突き詰めていれば、憧れは現実になると体現した彼ら。こうやって音楽は次の世代へバトンが受け継がれるのだろう。
序盤から圧倒的なサウンドで独自の世界を作り上げたのは、シュリスペイロフ。2曲目の「檸檬」では、変則的な展開と、どこか気怠さをまとう宮本英一(ヴォーカル&ギター)の歌声が絡み合い、迫力と狂気が迫ってくる。そこから見えたのは、音楽に対する譲れないストイックさと、誰もやらないことをやろうとするオルタナティヴな精神だ。宮本がMCで口にした、シュリスペイロフも今年20周年を迎えるけれど、特別なことをしようとは思っていないということ、振り返れば10周年も特に何もせず11周年で企画を打ったという、そんなエピソードにも彼らのスタンスがにじみ出ていた。そして少し寂しげで、優しいメロディがそっと耳に残る新曲「クリストファー」には、ひねくれた部分はあるけれど、この歌が届いて欲しいという願いが胸に届く。また、山中が原案を手掛けた映画『王様になれ』(9月13日より全国で順次公開)を試写会で観て涙が止まらなかったという宮本に対し、澁谷悠希(ギター)は、「この映画を観て僕たちがピロウズに出会った時のことを思い出せるようにしてくれたのかなって、さわおさんに聞いたら、そこまで考えてないって言われた(笑)」と、ピロウズへの愛を感じる発言も印象的だった。MCでは和やかな空気が流れていたが、最後に演奏された「ガール」で一変。心の叫びのように鋭く繊細な音が会場中に響き渡り、その切迫感に思わず息を呑んだのだった。
切なさと温かさが交差する「She, her」で幕を開けたnoodles。「この20年間、ずっとDELICIOUS LABELにいるので、自分たちのアニバーサリーのようにも感じます」とyoko(ヴォーカル&ギター)が話したとおり、山中が彼女たちの音源を出すために立ち上げたのがDELICIOUS LABELなのだ。当初、オルタナに特化していたレーベルは、今や新しいバンドも加わりジャンルの垣根を越えた音楽を届けている。20年の間にこうして変化したのと同じく、noodlesもこの20年の間に変化してきた。4人から3人編成になったのち、一昨年にはドラムが離脱。そしてyokoとikuno(ベース)の2人になってから初となるアルバム『I'm not chic』に収録された「Ruby ground」が演奏される。〈どこまでも飛んでみる きっと/世界の終わりなんてないよ〉というフレーズに、彼女たちは何があっても歩みを止めないのだろうと思わされる。トレイシー・ウルマンのカヴァー「Breakaway」で、軽快なリズムに自然と身体を揺らすオーディエンスたち。「ライヴをすると、みんなに『ありがとう』とか『元気をもらいました!』と言ってもらえるけど、それは私も同じ気持ちなの」とyokoが語り、新曲「I'll be a sensitive band tomorrow」をプレイ。これからも音楽で通じあっていきたいという思いにあふれたこの歌は、聴き手のそばに寄り添い、苦しい時には力を与えてくれるだろう。素直な言葉とシンプルなサウンドによって、今の彼女たちの力強さを最大限にみせたステージだった。
いよいよトリを飾るピロウズへ。「Ready Steady Go!」で火蓋を切り、オーディエンスの熱量に負けぬよう、気合いの入ったパフォーマンスで魅せていく。「プロポーズ」を披露し終えると「どのバンドも面白いだろう? クセが強い!」と山中。そう話す彼の表情からは、3バンドに対する愛情と、誇らしさも感じられる。真鍋吉明(ギター)が、レーベルを旗揚げし、山中の器がどんどん大きくなったとMCで話していたが、彼自身もさまざまなバンドと関わりを持つ中で刺激を受けてきたことだろう。周りに理解されず、うまくいかないもどかしさが表れた「ぼくは かけら」が演奏されると、デビュー後、同期のバンドが次々と売れていくなか、思うように評価をされてこなかった経験をしてきた彼らの姿が重なっていく。今年結成30周年となるが、この30年の道のりは、決して順風満帆ではなかった。それでも諦めずに、自分たちの信じる音楽を貫き続けてきたピロウズ。「Can you feel?」と絞り出すように山中が叫ぶ。それを受けて会場から大きな歓声があがり、「ハイブリッド レインボウ」へ。どんなことがあっても前に進んでいこうという思いを、彼らとそこに集まったすべての人が互いに分かち合うように、会場はひとつになった。そして本編が終了し、まだまだ聴き足りない!というオーディエンスのアンコールの声に応え、2曲を披露。「Funny Bunny」は、もがき悩みながら生きるオーディエンスひとりひとりを肯定し、「No Surrender」では、この先に何が待ち受けていようと、自分たちの道を切り開いて進んでいく、そんな彼らの揺るぎない信念がにじみ出ていた。
この4バンドを観ているうちに、ふとよぎったのが、高校のクラスメートの言葉だ。周りと話が合わないから音楽を聴くのをやめた、と聞いて、悲しい気持ちになったのを覚えている。あの頃の自分は、音楽の話を周りとできなくても、ただ新しい刺激を求めて音楽を聴きたいという一心だった。あれから数年経ち、社会に出て、その記憶から遠のいていたが、そうせずにはいられない、聴かずにはいられないという気持ちが自分の中にあることに改めて気付かされた。それはこの4バンドが持つ、音楽へのまっすぐな気持ちに心揺さぶられたからだと思う。この先もDELICIOUS LABELから発信される音楽は、世間の流行りなどに左右されず、この音を鳴らしたいんだ!という、混じり気のない純粋な衝動から生まれていくのだろう。
ピロウズのアンコール後、出演者全員がステージに揃い、オーディエンスと一緒に集合写真を撮影するワンシーンがあった。「普段だったら絶対にしない!」と山中は言っていたが、彼らにとって、そして私たちにとってもDELICIOUS LABELは特別なものなのだ。それを実感した素晴らしい一夜だった。
文=青木里紗
【SET LIST】
■THE BOHEMIANS
01 THE ROBELETS
02 太陽ロールバンド
03 GIRLS(ボーイズ)
04 おぉ!スザンナ
05 クリエイション&アクション
06 ダーティーリバティーベイビープリーズ
07 No Substance
■シュリスペイロフ
01 行灯行列
02 檸檬
03 クリストファー
04 ルール
05 なんで不安で
06 ガール
■noodles
01 She, her
02 EBONY
03 Ruby ground
04 Buggy loop
05 We Are noodles From Sentimental
06 Breakaway
07 I'll be a sensitive band tomorrow
08 Ingrid said
09. 965
■the pillows
01 Ready Steady Go!
02 プロポーズ
03 バビロン 天使の詩
04 ぼくは かけら
05 マシュマロ&ピーナッツ
06 パーフェクト・アイディア
07 サード アイ
08 ハイブリッド レインボウ
09 Locomotion, more! more!
ENCORE
01 Funny Bunny
02 No Surrender