1人でいるのが好きなんですけど、いざ自分の蓋を開けるとそこに必ず誰かいるんですよね
この作品を作る前に、そうやって自分を掘り返す作業があったってことですよね。
「ありましたね。なんでかわかんないですけど、自分って何なんだろうって思うことが、前の作品出すあたりから多くなっていて」
前回のアルバムはメジャーデビューをするにあたって、エンドウアンリってこういう人間ですよっていうのを包み隠さずに出した作品だったじゃないですか。だからこそ、改めて自分はどういう人間なんだろうとか、振り返ることが多くなったんじゃないですか。
「ああ、なるほど! 自分自身を作品にしたから、考えるようになってたのかも。言われれば、たしかに……今すごい腑に落ちました! なんか相談に乗ってもらった感じで……ありがとうございます」
いや、私の想像でしかないけど……。
「でも自分自身には自信があるんですよ、前回に引き続き。だからそこで悩んでたとかでは全然なくて。それに周りと比較することもなくなったから、周りと見比べて〈俺は大丈夫〉って保つような自信でもないんですよね、今は。もっと自分自身から出てくるものというか」
で、自分を振り返った結果、〈結局人間が好き〉っていう答えが出てきたと。
「そうですね。今回歌詞を書き始める前から、その部分と、あと最後にある〈僕も君も人間だった〉っていう、この2行だけはもう決まってたんです。これって裏を返せば、〈君が好きだ〉ってことでもあるんですよ。そういうメッセージが裏にあって」
だから、やっぱりアンリくんはどこかで人をすごく求めてるし、人に伝えたいこととか届けたいものもはっきりあって。こうやって自分のことを歌にすると、誰かの存在が浮かび上がってくるんだなって。
「そうかもしれないです。なんか、感謝したい相手っているじゃないですか。例えば両親とか。で、周りからよく言われるんですよね、後悔ないように生きてるうちに感謝の言葉を伝えとけよって」
親孝行しとけとかね。私もよく言われますよ。
「自分は包み隠さずに、感謝の意を伝えたりするんですけど、伝えても伝えても自分の中で足りないんですよね。満たされることがないというか」
伝えきれてないと思っちゃう?
「もっと大きく伝えたいって思っちゃうんです。〈とても感謝してます〉という言葉の上があるならそれを使いたいくらい、全然足りなくて。こんなんで生きてるうちにどれだけ感謝を伝えられるのかと思うことがあったんですよ。それもひとつ人を求めるというか、後悔しないように何かを伝えたいっていう気持ちがすごくあるんですね。優しくしたいっていうか」
だから曲調もペリカンファンクラブらしさはあるけど、自然と明るくて温かい、聴きやすいものになっていて。
「そうですね。〈ベートーヴェンのホワイトノイズ〉は、意図的にキラキラさせたいというか、それは意識しました。ポジティヴですよっていうことを表現したかったというか。今まで楽曲に対して歌詞をリンクさせようって考えがあまりなかったから、激しい曲で明るいことを唄ったり、明るい曲だけど実は怒りを表現したりっていう捻くれがあったんですけど、今回の曲はそういうのはないですね」
バンドとして伝えたいものとか、自分が表現したいものが素直に出ている感じというか。
「素直ですね。今回はあまり捻くれずに、できるだけ聴きやすくっていう。ポップでありたいっていうのは前から思ってたんで。人に届くものでありながら、自分たちのやりたいことがちゃんと反映されてればいいなっていうふうに思いながら制作しました。そういう言葉選びだったり、メンバーの共通意識はあったんで。だから、歌詞に出てくる対象物も前作から変えていってて」
より身近なものになってますよね。
「そうなんです。前作までは、歌詞に出てくる対象物が大きかったんですよ。例えば宇宙的なものだったり、空だったり。今回も白夜とか太陽とかって言葉は出てきますけど、繰り広げられてることって狭いんですよ。そうすることで聴く人がイメージしやすくなればいいなって思ってたんで」
どれも〈僕と君〉の歌であり、君から受け取ったものや、その人を通して見える景色が描かれてる。自分に何かを与えてくれた周りの人の存在が、絶対にアンリくんの中にいるんだなって思いました。
「僕もそう思います。1人でいるのが好きなんですけど、いるんですよね、誰かは。いざ自分の蓋を開けてみたら、そこに必ず誰かいる。1人でいると、誰かのことを考えたり思い出したりしますからね。それでまた、あれ自分はなんだ、人間ってなんだって考えて悶々としてくわけなんですけど」
ふふふ。面倒くさいですね。
「でも〈ベートーヴェンのホワイトノイズ〉っていう曲が書けて、自分が何かっていうのがまた少しわかって、次はこういうの唄おうって今思えてきてるんですね。だから、自分たちの背中を押せる強い1曲にはなったかなって。もう早くいろんな方に聴いていただきたいんですよ」
リリースが待ち遠しいと。
「みんなどういう反応なんだろうって。いろんな賛否が聞きたいです」
賛でいいんじゃないですか(笑)。
「いや、いろんな意見が聞きたいなって思うんですよ。そういうところに踏み入れるような詞だと思うんで、人のパーソナルな部分というか。だって、〈結局人間が好きだった〉っていう始まりで、〈僕も君も人間だった〉っていう締めで、聴く人は人間なわけですから。そんなこと知ってるわって思う人もいるだろうし、さっき言ったようなメッセージを感じてくれる人もいるだろうし。これは純粋に僕の人間に対する興味なのかもしれないですね。どういうふうにみんな考えてるんだろうって」
そういういろんな人の意見を聴いて、アンリくんの中に新しい感覚が芽生えて、また曲ができていくんでしょうね。
「そうですね。ひとつだけ言えるのは、まだそんなにたくさんの人から感想を聞いたわけではないんですけど、今のところ、普段から自分を人間だと思って生活してる人とはまだ会ってないです(笑)」
文=竹内陽香