4月20日、自身最大規模となるZepp Tokyoでのワンマン。アルバム『Now & Then』を引っさげたツアーのファイナルでもあったこの日のライヴは、改めてSHE’Sがライヴハウスを飛び出し、ホールはもちろんアリーナクラスの会場をオーディエンスで埋め尽くすことができるポテンシャルを持つバンドであると確信させるようなものだった。アッパーかつ勢いのある楽曲で前半と後半を固め、中盤のブロックは「Ghost」に象徴されるようなじっくり聴かせる楽曲に重心を置いたセットリストには、今まで以上に音楽に対して誠実であろうとする意志を感じるものだった。また、アンコールで披露された新曲もしかり。演奏やパフォーマンスに課題を残した部分はあるものの、アリーナの舞台に立つ彼らが容易に想像できるようなライヴだった。あれから1ヵ月経った今、すっかりツアーの余韻も冷めて次のタームへバンドが向かうこのタイミングで、改めてあの日のライヴをメンバーとともに振り返るインタビューを行うことにした。ちなみにこの日のライヴ、1曲目が始まる瞬間に同期を出すタイミングを誤ってしまい演奏が止まり、ライヴを入場からやり直した彼ら。そんなボケをかますところもSHE'Sというバンドの魅力でもあるのだ。
今日はツアーファイナルのライヴを振り返る取材です。
井上竜馬(ヴォーカル)「お願いします。でも……もうどんなライヴやったか忘れちゃいましたよ(笑)」
大丈夫です。ライヴ観ながら細かいメモを取ってあるので。ほら。
井上「うわぁ! セットリストにいっぱい書きこんでる……〈声がうわずってる〉って(笑)」
あと、曲によって○とか△とか×とかつけてあります。
井上「え、新曲はどうだったんですか?」
新曲は◎。
全員「おお!!」
井上「〈Set a Fire〉は?」
「Set a Fire」は……〈もっとドラマ性がほしい〉とありますね。スケール感がある曲だけに、もっとドラマチックに演奏できるんじゃないかと。
全員「あぁ……」
でも反省会をやるわけじゃないので、あの日を楽しく振り返っていきましょう。とはいえ、大事なZeppワンマンなのに、出だしでやらかしました(笑)。
井上「やっちゃいましたねー」
入場からやり直すことになってお客さん大爆笑でしたが、あれはウケ狙いの仕込みですか?(笑)。
井上「台本通りです!(笑)」
ステージ上ではキム(木村雅人/ドラム)が責められてましたが、あれは何が起こったんでしょうか。
木村「あれはですね、パソコンの同期……シーケンスを出すスタート位置が、気づいたら2拍後ろにあったんです。それに気づかず演奏をスタートさせたから、いざ始まったら何が起きてるのかわからないっていう」
「The Everglow」は竜馬くんの歌から始まる曲ですが、唄い出しのタイミングと同期の音がズレてしまったと。
井上「いきなり同期の音がヘンなタイミングで鳴って〈おーい!〉って感じでした(笑)。でもそこに合わせようと焦ったら歌のピッチもめちゃくちゃになってしまって」
服部栞汰(ギター)「ズレたタイミングでシーケンスの音が聴こえた時〈これはやばい!〉と思って、僕はシーケンスに合わせたんですけど、全員ズレていって。竜馬が止めたんで助かりましたけど(笑)」
広瀬臣吾(ベース)「俺はその時突っ立ってるだけだったんですけど、そういうトラブルってお客さんが気づかなければそのままやってもOKだと思うんですよ。でもお客さんの顔見たら、ハッ!って感じになってて〈あー、これはアカンわ!〉って……(笑)」
あそこで演奏をやり直すだけじゃなくて、一旦引っ込んでステージに出てくるところからやり直したのが好判断だったと思います。
井上「いや、あの状態で曲だけやり直すのは無理ですよ。でも、あのトラブルのおかげで緊張が解けたというか。足の震えも収まってたし、気持ちが落ち着いた気がする」
広瀬「お客さんもそうだったよね」
井上「そうそう。SEが鳴ってウワー!って歓声の大きさが、最初よりちょっと大きくなってた(笑)。お客さんも心の準備ができたのかな」
ああいう失敗を楽しさに転換できるのは、このバンドの強みだと思いました。
井上「そうですね。だから、SHE’Sがすごくクールなバンドじゃなくてよかったなって思いました(笑)」
広瀬「ああ、確かに」
服部「それやったら演奏を止めようがない(笑)」
ちなみに今回のセットリストはどういうイメージで構成したんでしょうか。
井上「まずアルバム通り〈The Everglow〉で始まって〈Stand By Me〉で終わるっていう構成にしたくて。あとは〈Now & Then〉っていうツアータイトルでやってるぶん、既存曲をできるだけ直近のアルバムから選ばないようにしました」
それは今の自分たちと過去の自分たち、という意味合いで?
井上「そうですね。あえてインディーズ時代の曲を入れてみたり。東京では中盤のブロックで〈Flare〉をやったんですけど、違う公演ではそこを〈ワンシーン〉っていうインディーズの曲に変えてたり。あと4曲目にやってる〈Change〉は〈The Everglow〉と対になってるというか」
「Change」もインディーズ時代の曲ですね。
井上「あの時は〈変わらないものなんてないだろ〉っていう気持ちでいたんだけど、あれから4年経って〈いや、ずっと変わらないものもあるんだ〉っていうことを〈The Everglow〉で唄っていて。その心境の変化こそ〈Now & Then〉やと思って。ツアーの途中から〈Change〉はやるようになって、ファイナルでも絶対やろうって」
この曲はメンバーのコーラスも良かったのと、歌と演奏でお客さんの胸ぐらをガっと引き寄せるような強さがありました。
井上「良かったです」
あと昔と今の対比っていうところで言うと、どの曲が古くてどの曲が新しい、みたいな印象がなくて。つまりインディーズ時代の曲も今のSHE’Sにアップデートできていたんじゃないかと。
井上「それはツアーの中で目指してたところでもあって。古い曲をやっても当時からアップデートできていないと成立しないセットリストだと思うんで。そのことをお客さんにも感じてもらえたらうれしいなと思いました」
新しいアルバムの曲も音源とは違うアレンジでしたね。
服部「〈Clock〉は特にそうですね。音源にはないバンドサウンドのアレンジをライヴでやってみようって。音源にはないライヴ感が出たと思います」
あと、Zeppだからこそ今までとは違う聴こえ方がする曲もあったと思います。
井上「昔からすごく広いところで演奏している感じをイメージして書いてる曲というのがあって。今回だと〈Change〉とか〈Night Owl〉とか、新しいアルバムだと〈Upside Down〉とか。そういう曲はZeppっていう大きな場所で演奏することで、ようやく報われた感じがありましたね。もっと言えばアリーナとかスタジアムとか、そういう場所でやれたらもっと躍動感が生まれるんやろうなっていうのはすごく思いました」