やりたいものとやってることのギャップがどんどん狭まってきた感じがしてる。無理やり近づけようとしてるんじゃなくて自然に
ははははは。
「だから今は、みんなが抵抗なく入ってこられるように、間口を広げようかなって」
でも世相や空気を無視して、わかりやすい歌詞は書けない。
「うん。だからメッセージソングっぽくなっちゃった」
まあ、今の時代に正直になればこうなるよね。
「リアリティを求めていくと、今、惚れた腫れたをいっぱい唄っても説得力がないんですよ。ロマンは常に求めてるけど、それをそのまま書いても、すごく嘘くさいというか、うわっつらになっちゃうんですよ。そういうのが鼻で笑われちゃう時代だから。それをどうやって残すか、なんですよね」
それを出せば、今のファンは狂喜乱舞すると思うけど。
「でも、より広い層に伝わるか、と言われたらそうじゃないと思う。だから難しいんですよね」
そうすると、信じてるものを貫くしかないんだよね。
「そう思う。でもやり続ければね、必ず巡ってきますから。やりたいものとやってることのギャップがどんどん狭まってきた感じがしてるし。無理やり近づけようとしてるんじゃなくて、めっちゃ自然に」
だから、自分のサンクチュアリを持つことが大事なんだ、ってことですよね。
「そう。このアルバム、自分自身にも言い聞かせてるんだよね」
「終わらないこの旅を」とか、まさにそうだし。
「今の年齢になったから唄える曲ですよね。20代の頃に語ってた人生、見てた人生がいかに狭くて……それでもがむしゃらに大人ぶろうとしてたかがよくわかる」
あの頃は、どんなことを思い描いていたと思いますか?
「自分のことばかり見てた気がする。世の中ああだこうだと言ったところで、その中にいる自分の姿がちゃんと見えてないとどうにもならないから」
客観性がなかったと。
「20代ってそういう年頃だと思うんです。俺に限らずみんなそう。でもそのエネルギーがロックになって、面白いんだけど」
今の自分もそういう部分を持ってはいるけど、引いて見ることもできるようになったし。
「そう。あと、人と一緒にものを作る楽しさもやっとわかった……遅っせえ! 成長が遅え(笑)」
はははは。でも誠実に音楽に向き合ったら、そうなるもんだし、そういう人の歌だからグッとくるわけですよ。
「ありがとうございます。ネオントリップのおかげだ(笑)」
はははははは!
「月に1回、あのコラムで心鎮まる時があるから(笑)」
自らに降り掛かったいろんなことを吐き出し……。
「はははは。あなたとカメラマンとマネージャーと、みんなで苦しみを共有する。SNSは良さ、楽しさしか共有しないから」
私こんなにすごいの、楽しんでるの、幸せなの、悲しんでんの、不幸なの、ってことをアピールして、自慢するか慰めてほしいだけですからね。
「本音は人間、苦しみこそ共有したいんですよ。だからお寺だったり教会だったり、何百年と残ってるじゃないですか」
何かを吐き出す場所としてね。
「うん。あれは楽しい人が集まる場所ではないけど、聖域として絶対に必要なんだと思うんです。僕にとっては音楽がそういう場所なんですよ」
でも音楽がサンクチュアリって、ちょっとカッコよすぎるな(笑)。
「なんでカッコつけちゃいけないんだよ!(笑)。でも、音楽って、苦しい時に聴くことのほうが多いじゃん。そういう部分をわかちあう。本当にシェアしなきゃいけない部分は、そこだと思うんだよね」
文=金光裕史
撮影=笹原清明
撮影協力=マザー牧場