比べれば比べるほどしんどくなる。だから俺、音楽シーンの新橋で、立ち呑みしてる状態です(笑)
これだけは誰にも触れさせない、そんな場所をね。
「そう。信じられる、自分の心が落ち着ける場所というか」
あなたにとってそれはなんなんでしょう。
「ふふふ。あえて言うなら音楽ですかね」
ごまかすな(笑)。
「でもそれは本当。音楽と居酒屋は僕にとっての聖域ですよ。サンクチュアリ(笑)」
どういう聖域だ(笑)。
「人生が息づく場所というか。この間も新橋でハシゴしたんですけど、最高だなぁと思った」
渋谷や表参道と違って、新橋や上野や新宿は、人生に行き詰まった人がいっぱいいますからね。
「はははは。でもみんないい顔して呑んでるんですよ。SNSが居場所じゃないんですよ」
ははははは。
「どいつもこいつも〈映え〉って、やかましいわ! 人と比べて自分が優ってるか、ズレてないかを確かめるのがクセになってる。そうじゃなくて、そもそも人間には何も比べるものなんてないんですよ。だから新橋や上野の居酒屋はいいんです。それぞれの個として立ち呑みをしている(笑)」
哲学的に聞こえますな(笑)。
「比べれば比べるほどしんどくなる。そのいたちごっこじゃん。だから俺、音楽シーンの新橋で、立ち呑みしてる状態です(笑)」
音楽シーンの渋谷に突入しようとは思いませんか?
「思いませんねえ。渋谷に立ったら人混みに流されちゃう(笑)。でも振り向かせて、他にもいい街いっぱいあるって誘おうとしてるよ? 俺、誘うのが仕事だなって思うから」
そのために、渋谷にも足を踏み入れないと……。
「でも、若い人に聴いてもらうために、わかりやすいメロディと歌詞にしましょう、ってのだと元も子もないので、サウンドの質感とか、細かいところで少しずつアプローチしてるんです。ヴィジュアルだって、今回のアー写はTシャツ着てるし」
ははははは。
「いつもスーツ着て、昼ドラに出てくるイメージだと、若い人もとっつきにくいでしょ?」
俺が作ったイメージなことは否定できない(笑)。
「そうだよ! それが好きな人は来てくれますけど、そうじゃない人にも自然に入ってもらえるようにしたい。だからマザー牧場はいい気がして(笑)」
そのおかげで濃いファンに支えられてるとも言えますがね。
「本当に感謝してます。でももっと広げようと意識してる。音の面とか特に。今回、聴き心地にすごく気を配ったんです」
それ、すごくわかる。デイブ・カッチ(註:チャンス・ザ・ラッパー、フランク・オーシャンともタッグを組む名エンジニア)のマスタリングも素晴らしいね。
「そういう海外仕様の仕上げに、古き良き歌謡曲が同居してる(笑)。その奇妙さが、今回のアルバムの武器なんじゃないかな」
でも最近、 Superfly のプロデュースなども手がけてるじゃないですか。ああいう音楽の作り方とは違いますか?
「全っ然違う。最近の自分の作品は、演奏や曲によってはまるごとミュージシャンやエンジニアにお任せしたり、みんなで相談したりしてる。むしろバンドっぽいんですよ(笑)」
ミュージシャンとして信頼できるのと、客観性が持てるようになってるんだろうね。
「そうですね。前は5センチ前ぐらいしか見てなかったけど、広がってきました。やっと」
もう少し中田裕二を遊んでみよう、くらいの感じで自分をプロデュースできるといいんだけどね。
「人のことはめっちゃわかるんですよ。だからプロデューサー向きなんだろうね」
プロデューサー業やったら成功するんだろうな、と思うんですよ。
「自信ありますよ」
だからあんまりそっちに行ってほしくないわけです。
「俺もほどほどにと思ってる(笑)。でも人間の難しいところで、自分のことになるとなんで器用にできなくなるのかねえ」