苦み、痛み、悲しみ。孤独と、終わりが見えそうな物語。そんな感情のうねりに直面しながらも、この日常を生きていこうという意志。実にリアルだ。彼らとしてはこうしてありのままの自分たちを刻印する以外になかったのだと思う。この19年ぶりのオリジナル作については。
『9999(フォーナイン)』というタイトルの通り、現在の4人のフルパワーが集約された作品である。ただ、9という数字はわが国ではしばしば〈苦〉と置き換えられるわけで、吉井和哉はそこも織り込み済み。ここには〈4人で苦労を超える〉との意味合いも託しているという。
もちろんそうした感覚だけでなく、3年前の再集結を前に、その再会~再スタートを宣言した「ALRIGHT」の高揚感もあるし、2017年末の東京と福岡のドーム公演に先駆けてリリースした「Stars」ではもう一度ロックの舞台に戻る決意が唄われている。本作ではこうした既発曲と昨年制作された新たな楽曲とが交互に配置されているため、1枚のアルバムとしてのトータリティというより、再集結以降のバンドの道筋を記したものとなっているのだ。そしてこれを聴き進めることは、3年間の4人のエモーションの激流に身を任せ、その揺らめきや浮き沈みを共に感じることと同義である。
この制作の大詰めとして、吉井が録音の場をLAのサンセットサウンドに選んだ際に声をかけたエンジニアは現地で活躍する日系人のケニー・タカハシだった。ブルージーなロックを奏でる2人組、ザ・ブラック・キーズの録音スタッフとして名を上げ、ノラ・ジョーンズやU2と仕事をした実績もある才能だ。彼は事前に来日してメンバーと使用楽器を厳選したそうで、これがミニマムな体制での録音作業を実現させた。おかげでかの地での6曲では、生のソリッドな質感を存分に活かしたロックサウンドが仕上がっている。
そのLA制作では、バンドのルーツを思わせる、とくにグラマラスな匂いを放つ曲が多い。ヒーセのクールなベースラインがインモラルな生臭さを増幅させる「Love Homme」。地下室から出てきた彼らの野生が燃え盛るような「Breaking The Hide」。対して、正統なロック・バラードの「Changes Far Away」では吉井が祈るように唄う。切ないメロディにボブ・ディランを連想させる歌詞が舞う「Balloon Balloon」は4人がとくにお気に入りのようだ。呪文のような言葉も楽しい「Titta Titta」は陽性のリズムに絡むエマのギターが往年のローリング・ストーンズを彷彿させる。こうしたルーツ的な作品の傾向は、やはり土屋昌巳からの助言が大きな波動を生んだということだろうか。またリリース元が、古くから幾多のロックやソウルの名盤を輩出してきたアトランティックということもバンドの潜在意識にはあっただろう。
こうしてお目見えした『9999』でのイエローモンキーは、誠実なまでに自分たちの音を模索していて、時にそれは内省的ですらある。ここでは「LOVE LOVE SHOW」や「SPARK」のような突き抜けたポップネスは濃くないし、グラムロックやハードロックの要素はあるにしても、爆発するような派手さはない。むしろ彼らの表現の深みが追求されていて……その世界は、それこそこの日々を懸命に生きているような人の心の奥にまで刺さるはずである。
その歌の言葉として、吉井が愛や夢を唄おうと振り切れたのは、この時点ではおそらくはポジティヴに受け止めるべきことだろう。なぜなら、そう、彼らには……いや、僕たちにだって、そう長い時間が残されているわけではないからだ。そもそも誰だって、明日はどうなるのかなんて、わからない。大事なことは早く、ちゃんと伝えないと。今のうちに愛や夢を、しっかりと告白しておかないと。何かが手遅れになる前に。
そして、そこから始まる新しい愛や夢だって、きっとある。最後の「I don’t know」の歌と音に身を包まれるたびに、そう思うのだ。
文=青木優
※THE YELLOW MONKEYが表紙の『音楽と人』2019年5月号が発売中!
NEW ALBUM 『9999』
NOW ON SALE
01 この恋のかけら
02 天道虫
03 Love Homme
04 Stars(9999 Version)
05 Breaking The Hide
06 ロザーナ
07 Changes Far Away
08 砂の塔
09 Balloon Balloon
10 Horizon
11 Titta Titta
12 ALRIGHT
13 I don't know
DVD (初回生産限定盤のみ)
「SELECTION of THE YELLOW MONKEY」
・楽園(2016.05.11 国立代々木競技場 第一体育館)
・熱帯夜(2016.08.28 福島・あづま総合体育館)
・ROCK STAR(2016.09.01熊本B.9 V1)
・パンチドランカー(2016.12.18 倉敷市民会館)
・聖なる海とサンシャイン(2016.12.28 日本武道館)
・O.K.(2017.11.05 三重県文化センター(大ホール))
・ALRIGHT(2017.12.10 東京ドーム)
・追憶のマーメイド(2017.12.28 福岡ヤフオク! ドーム)
・天道虫(2018.12.28 日本武道館)
・Subjective Late Show(2015.08.某日 都内スタジオ)
「STORY of THE YELLOW MONKEY(another STORY)」
THE YELLOW MONKEY SUPER JAPAN TOUR 2019
-GRATEFUL SPOONFUL-
4/27(土) 静岡 静岡エコパアリーナ OPEN16:30 / START17:30 ♦
4/28(日) 静岡 静岡エコパアリーナ OPEN15:00 / START16:00 ♥
5/11(土) 北海道 北海きたえーる OPEN16:30 / START17:30 ♦
5/12(日) 北海道 北海きたえーる OPEN15:00 / START16:00 ♥
5/25(土) 福井 サンドーム福井 OPEN16:30 / START17:30 ♣
6/7(金) 大阪 大阪城ホール OPEN17:30 / START18:30 ♦
6/8(土) 大阪 大阪城ホール OPEN16:00 / START17:00 ♥
6/11(火) 神奈川 横浜アリーナ OPEN17:00 / START18:30 ♦
6/12(水) 神奈川 横浜アリーナ OPEN17:00 / START18:30 ♥
6/29(土) 秋田 秋田県立体育館 OPEN16:30 / START17:30 ♣
7/6(土) 埼玉 さいたまスーパーアリーナ OPEN16:30 / START17:30 ♦
7/7(日) 埼玉 さいたまスーパーアリーナ OPEN15:00 / START16:00 ♥
7/13(土) 福岡 マリンメッセ福岡 OPEN17:00 / START18:00 ♦
7/14(日) 福岡 マリンメッセ福岡 OPEN15:30 / START16:30 ♥
7/20(土) 広島 広島グリーンアリーナ OPEN17:00 / START18:00 ♦
7/21(日) 広島 広島グリーンアリーナ OPEN15:30 / START16:30 ♥
8/3(土) 宮城 宮城・セキスイハイムスーパーアリーナ OPEN16:30 / START17:30 ♦
8/4(日) 宮城 宮城・セキスイハイムスーパーアリーナ OPEN15:00 / START16:00 ♥
8/8(木) 東京 日本武道館 OPEN17:30 / START18:30 ♣ 【追加公演】
8/9(金) 東京 日本武道館 OPEN17:30 / START18:30 ♠ 【追加公演】
8/26(月) 兵庫 神戸ワールド記念ホール OPEN18:00 / START19:00 ♣ 【追加公演】
8/27(火) 兵庫 神戸ワールド記念ホール OPEN17:30 / START18:30 ♠
9/3(火) 徳島 アスティとくしま OPEN17:30 / START18:30 ♣
9/14(土) 福島 あづま総合体育館 OPEN16:30 / START17:30 ♣ 【追加公演】
9/15(日) 福島 あづま総合体育館 OPEN15:00 / START16:00 ♠
9/21(土) 熊本 グランメッセ熊本 OPEN17:00 / START18:00 ♣ 【追加公演】
9/22(日) 熊本 グランメッセ熊本 OPEN15:30 / START16:30 ♠
THE YELLOW MONKEY 公式HP http://theyellowmonkey.jp/
ツアー特設サイト http://theyellowmonkeysuper.jp/feature/tyms2019