ギターのフレーズに色気を感じるイマドキな都会派サウンドなのに、孤独感だの喪失感だのを綴る歌詞はやたら傷だらけ。そんなコントラストもあってか昨年からサブスクやSNSで話題となっている岡林健勝によるソロ・プロジェクトだ。ミニアルバム『WINDNESS』がリリースされる今回、ようやく取材の機会を得ることができた。これまで本人のヴィジュアルはおろかライヴ活動も控えられていたのだが、その一方でホームページに投稿しているコラムでは凄まじいボリュームと熱量で楽曲や自身について語られている。自分のことをわかってもらいたいのか、謎めいていたいのか、それともどっちつかずなのか。インタビュー慣れしてない緊張気味の彼に不躾な質問をしてみることにした。
(これは『音楽と人』2019年2月号に掲載された記事です)
インタビューはこれで何回目ですか?
「先週、先々週と 2 回やってもらったんですけども……どっちも玉砕と言いますか(笑)」
上手く話せなかったと(笑)。
「口下手なんで、今はそれを治そうと思ってるんですけど、なかなか難しくて」
言いたいことがうまく伝わらない、みたいな?
「あれ言っておけばよかったなとか、すごくありました。でも自分の話を聞いてもらうのはすごく嬉しいことなので、嬉しさと戸惑いが両方ある感じです」
そうですか。僕は曲を聴いて、歌詞を見て、ホームページを見て、すぐ取材したいと思いまして。
「あ、それはすごくうれしいです」
唄いたいことというか、言いたいことがたくさんありそうな人だなと。
「あります。言いたいことがいくら言っても減らない感じです」
言いたいことは楽曲にとどまらず、ホームページのコラムにまで溢れてて。自分が音楽を始めた理由にも触れてますよね。
「僕、以前はちゃんと自分の名前で顔出しもしてたしライヴもやってたんですけど、自分の楽曲の魅力を伝えるために、あえて名前と顔を伏せて活動してみようと思って始めたのがGhost like girlfriendで。でも自分がどういう人間なのかはちゃんとわかってもらうことでもっと楽曲が伝わるんじゃないか……と思って、それで自分の恥と知りつつ、とにかく自分のことを明け透けに書いてみようと思ったコラムで。だから楽曲の魅力を伝えるために始めたものなんですけど」
楽曲の良さを伝えるコラムとしては、内容も文章量もずいぶんと過剰で。ここまで説明しているのはどうしてなんでしょう。
「聴く人によって歌詞の解釈って違ってていいって思う人もいるけど、俺はむしろ『こういう歌です』って全部説明することでガイドラインを作りたいというか。聴いてくれた人の解釈とか意見が自分と同じだったり違ってたりっていうことがわかったほうが楽曲をより楽しめるんじゃないかと思って」
要はちゃんと伝えたいってことなんでしょうね。今の説明はちょっと回りくどかったけど(笑)。
「そうですね(笑)。やっぱり難しいです、インタビューは」
人と接する中で、自分のことがわかってもらえないとか、ちゃんと伝わらないとか、そういう思いはよくありますか?
「そうですね、わりと多いほうだと思います」
そういう思いが音楽をやる理由に繋がってると思います?
「繋がってると思います。音楽を始めるまでは住んでるところも田舎だったので、学校が自分の世界のすべてだったんですけど、音楽はそれとは別の世界を作るっていう感覚があって。だから自分はそっちで生きて行けばいいか、みたいな感じで」
それぐらい学校という世界が自分にとっては居づらい場所だったと?
「友達がいなかったわけじゃないんですけど、そんなにみんなから好かれるようなタイプでもなかったと思います」
さっき話したコラムでは自分が曲を書くようになった経緯を書いてますけど、その話を詳しくしてもらっていいですか?
「高校 1 年生の頃に好きだった女の子が不登校になっちゃったんですよ。で、先生に頼まれて毎日その子の家まで授業のノートを届けに行ってたんですよ。で、半年経った頃、ノートを届けに行ったらようやくその子に会えたんです。それまではメールしても返信がなかったし、でもやっと半年ぶりに彼女に会うことができた。もう少ししたら学校にも来れるようになって、僕が言いたかったことも言える日が来るんじゃないかと思ってた矢先に、その子が退学しちゃったんですよ」
伝えたいことが伝えられなかった。
「本当にその時は喉もとにまで出かかってる状態だったんで、言いたいことが。だからそれを曲にしようと思って。そうでもしないとその子が急にいなくなってしまったことがしんどくて、耐えられなかったというか」
そのぶん自分のことをちゃんと伝えたいっていう気持ちをGhost like girlfriendからとても強く感じます。でも今はいろんな人に音楽が聴かれる状況になって。伝わってるんだっていう実感があるんじゃないですか?
「うーん……どちらかというと、今の状況はパラレルワールドの中にいるっていう感じです。数字だけ見てると自分の音楽が広がっている現状があるのはわかるけど、〈それって本当?〉みたいな気持ちが強くて。だからまだお客さんが誰もいないライヴハウスでライヴをやってた頃の気持ちとあんまり変わらないというか。〈いつ俺は日の目を見るんだろう?〉っていう(笑)。ただ今年 3 月にライヴをやるので、そこでどれだけ実感を得ることができるのかっていう感じですね」
今までの作品もそうですが、今回も唄ってる内容はどれも内省的だしトーンも暗くて。あからさまに自分のことを伝えたいって主張してるわけじゃない。むしろ伝えたいって気持ちが強い一方で、〈そう簡単にわかってもらえるもんじゃない〉みたいな気持ちもあると思ったんですが。
「うん……そうですね。どっちの気持ちもあります。うん、今そう言われてすごく腑に落ちました。自分の中に 2 つ芯があるというか。こう思ってるし、こうも思ってるっていう」
最近まで名前を伏せたり顔を出さなかったりっていうのも、そういうことなんだろうなって思います。たぶん伝えるってことに対して潔癖というか、怖れている部分がある。
「…………」
自分ではどうですか?
「確かに〈ちゃんとわかってもらいたい〉っていう気持ちが強いのかもしれない……」
だからインタビューって難しいなって思っちゃうし、コラムで過剰なまでに説明しようとする。でもその思いの強さが作品に滲んでいるところが、とてもいいなって思います。
「ありがとうございます……。俺、面倒くさいヤツですね」
これからもインタビューは苦労すると思いますよ(笑)。
「そっか……俺っていう人間は面倒くさいんだなぁ……」
そこがあなたの音楽の魅力なんですよ(笑)。
「あぁ……(笑)」
文=樋口靖幸