THE イナズマ戦隊のニューアルバム『I love U』が発売された。憧れや理想だけではなく、彼らが歩んできた人生から生まれた言葉が音楽に刻まれるようになり、これまでどこか虚勢を張って、カッコつけがちだったフロントマン上中丈弥もまっすぐに自身を歌に投影している。歳を重ねて、バンドを続けてきたからこそ生まれた、素直で等身大な作品だ。新作については『音楽と人2月号』で上中にたっぷり語ってもらっているが、WEBでは、ファーストフルアルバム時のインタビューを再掲載。憧れを追いかけていた若かりし日の上中の言葉と、今と変わらぬ音楽への情熱を感じてもらいたい。
(『音楽と人』2003年11月号に掲載されたインタビューです)
胸に宿る熱い思いを信じて疑わず、がむしゃらにロックする4人組、THEイナズマ戦隊。そんな彼らの初フルアルバム『勝手にロックンロール』が完成した。野球に例えるならば、すべて4番打者、先のシングル「応援歌」にも勝るとも劣らない、威勢のいい熱いロックンロールがぎっちり詰まったものかと思いや……アコースティックな手触りのバラード「真夜中ブルース」や、男のせつない気持ちが恋の終わりの風景とともに描かれるミディアム・ナンバー「最終列車」を筆頭に、1番打者から9番打者まで揃った作品なのだ。そして、そこから浮かび上がってくるフロントマン・上中丈弥の心の葛藤とバンドの成長の様。イナ戦の世界観を紡ぎ出す彼が、自分の弱い部分を知り、己の大きさを認識することによって、前を見ていこうという情熱をさらに確かなものにした。そして彼は、今も頑張っている。
フルアルバムがついに完成しましたね。今の心境はどうです?
「手ごたえあり!ですね。広い、ふくよかな感じのものができたと思います。そこで、例えば今までイナズマ戦隊が出したのを聴いてた人が、〈あれ? 今までとちゃうな〉と思うかもしれないんですけど。ホント勝手にロックンロールですね」
アルバムのタイトルどおりと(笑)。
「僕、詞を書くじゃないですか。それは今までと一緒というか、唄いたいことが変わったわけじゃないし、胸の中にあるものは変わってないからこそ、いろんなことができるんや、というか」
最初のミニアルバムでは、徹頭徹尾〈情熱〉を押し出してきたわけだけど、今回は、〈それだけじゃないんやぞ〉という部分がきちんとありますよね。
「うーん……その、いい意味で肩の力がちょっと抜けたのかな。何か自分に余裕ができた」
気合いゆえに、っていうのもあるだろうけど、デビューしてリキんでいたところもあったのかな? それとも、北海道から東京に出てきたという、環境の変化が大きかったりもするのかしら?
「どっちもありますね。北海道から来た当初は〈アンチ東京〉でしたからね(微笑)。ずーっと中指立ててライヴしてて。やっぱり一本の光が見えてくるまでは、暗闇を歩いているわけですよ。そうするとやっぱり気ィ張るじゃないですか、怖いから。そういう状況だったんですよね、たぶん。だからようやく、ひとつ光が見えたというか。……ツアーも何本か廻ったけど、とくに最初のツアーなんて、気ィ張ったまま廻ってたから、受け入れられないんですよ」
自分たちを出すことだけに、気をとられていたというか。
「そうそう。スタッフとか周りに何を言われても〈いや、俺は北海道で何年もこのスタイルでやってきたんや〉って思っていて。ま、当然なんですけど、THE イナズマ戦隊をよくするために言ってるんや、と。それがね、最近ようやくわかってきたというか。〈チーム・イナズマ戦隊=スタッフ〉を自分らの仲間だと思えるようになった」
丈弥くんって、両手広げてすぐ人を受け入れられるタイプの人間だと思ってたんですよね。
「まったく、逆やったんすよ。自分の領域を荒らされるのがすごく嫌。メジャーになりますよ!ってハンコ押したくせに、入ってくんな入ってくんなって(苦笑)。だからしまいには、周りが見えなくなっていて。例えば全国に一億二千万人いるなかで、下北沢の一角で盛り上がってる音楽シーンしか見れなくなっていたんですよ。ここで一番になることが、日本全国のロックシーンのトップになるんや、と。でも、そんなわけないじゃないですか! そんなんじゃ、〈応援歌〉を日本中に唄いたいって言っていても、広まらんわ、と」
自分が全国じゃなくて、下北沢の一番を目指してたらね。
「だからホント周りが見えてなかった。別に下北沢がいけないとかじゃなくて、俺は第一線で活躍してる人を目指してというか、トップの連中をぶっ倒してそれ以上になってやろうと思ってたのに、こじんまりしたところに目を向けて、肩をイカらせていたなって」
そうやって気がつけたっていうのは、具体的に言うと?
「いろんな人と話をしたりして、自分でゆっくり考えてみたり、いろいろCD聴いて考えたりして。何かやっとね、こっちきてやっと友だちもできましたしね。やっぱバンドやってる奴なんだけど、ホントひさしぶりに腹割って話しましたもんね、なんか」
それまでは、腹割ってるようで、そうでもなかった、と。
「全然。僕、ホントものすごく選んでましたからね。〈こいつら信用できひんやろな〉とかね」
とりわけサウンド面でも新機軸ともいえる「真夜中ブルース」(9曲目)には、今までになく〈弱い自分〉が全面に出ていますね。
「この曲、もともとは弾き語りで僕が作った歌なんですよ」
なんか独白に近い歌詞だよね。
「そうそう。だからホンマはすごい抵抗があったんですよ。けど完成してしまうと、すごいよかったなぁって思う。これたぶん、聴いてる奴は意味わからんかもしれんけど、俺はすごく意味わかるねん。だって俺の歌やから(笑)」
そりゃそうだ(苦笑)。
「ま、真夜中に俺はこんなことを思ってるんですよ」
そこで〈俺はあの日の俺に嘘をついてるかもなぁ〉と。
「ねえ。〈がむしゃらに俺は生きてんやぞ〉っていうのは核にあって。それは〈応援歌〉と変わってないんだけど」
弱っているかもしれないけど、それでも前を向いていこうとする気持ちというか。
「だから、俺が思う〈情熱〉というものへの攻め方がいろいろ増えたというか。ゆとりが出たぶん、引き出しが増えた」
それは、自分に自信が出てきたというのもあるんですかね。
「そうっすね、自信がもっと出てきたっていうのはありますね(笑)。だから、自分が今までやってることに対して、間違いなく打てば響くんだというのに気づいた。前は一点だけしか見てなかったから、そこに打って響かなかったらダメやと思ってたんですけど、自分が見えてなかった、その周りには、けっこう響いているんですよね」
そうやって、どこか見失いがちになってた時もあったわけだ。
「そう……東京に呑まれましたね(苦笑)。昔、怒髪天の増子さんが〈東京おもろいよ〉って言ってて。でも正直〈何、言ってんのや、この人は……?〉って思ったんですよ。で、東京は敵がおっておもろい、と。潰さないかん奴らがぎょうさん出てくるから、だから俺はこっち(東京)でやってんや、と。今になってわかるというか」
それこそ、戦っていくには、やっぱり自分の仲間や信頼できる人は誰かっていうのを見分ける必要があるわけだよね。
「そう。だから〈チーム・イナズマ戦隊〉という信頼できるものができたことによって、自分の殻を破れたという。それでまた前に進んでいけるやろうし。殻を破ったら、すっと空気が入ってくるわけですよ。それで、〈ああ、こうなんや〉〈こういうことやったんや〉って、考えられるような自分ができた。そうやって考えれるようになって、広く見れるようになったら、すごく音楽が楽しくなったんすよ。普通に〈俺、もっと上手く唄いたい〉〈説得力のある歌を唄いたい〉ってステージでも思えるようになったし。それはメンバーも一緒で。〈もっと説得力のある演奏をしたい〉と。そうなってきて、すごくいいんじゃないかな」
より広く見れるようになってきたからこそ、自分達に何が必要で、何が大切なんだっていうのがわかったきた、と。
「そう! そういうのもしっかり見えてきた。しっかり唄って、しっかり聴かせて。しっかりステージングして。だからこそ、いろいろやりたいことが増えてきて。曲を作っていても楽しいし。〈ああ、もう!〉ってならないですから(笑)。すごい成長してるなって」
自分で思う、と(笑)。
「俺ね、一昨日くらいに金魚飼ったんですよ。金魚すら飼う余裕なんかなかった、自分の心に。あんな癒されるような生き物でも、ダメだった。〈何だよ、ひよひよ泳ぎやがって〉みたいな。でもやっと、金魚もええなぁって(微笑)。ホントすごい楽しいっすね。今じゃ、金魚見て曲作ってますからね(笑)」
文=平林道子
撮影=曽根崎アキノリ