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山崎まさよし、弦楽四重奏を率いたツアーの千秋楽。この日、彼は新しい音楽の扉を開けた

text by 樋口靖幸

【Live Report】
Yamazaki Masayoshi String Quartet “BANQUET”
2018年12月26日 at Bunkamura オーチャードホール



山崎まさよしのキャリアを総括するようなとても素晴らしいライヴだった。 

渋谷オーチャードホールはクラシックのコンサート会場として日本屈指の音響設備を擁する施設。3月から始まった今回のツアーの千秋楽を迎える会場として、これ以上ふさわしい場所はないだろう。弦楽四重奏を率いてスタートしたこのツアーは、服部隆之氏によってオリジナルとは印象の異なるクラシカルなアレンジが施された楽曲を、チェロ、ヴィオラそして2本のバイオリンに、山崎によるアコギ、ガットギター、ピアノ、ブルースハープ、パンデイロそしてループマシンまで駆使して演奏という、極めて特殊な形態で行われてきた。即興性の高い山崎のプレイスタイルと反して、常に精緻さが求められるクラシック演奏家とのコラボレーションは至難の業であるように思えるが、服部氏をはじめカルテットの面々が彼の楽曲や彼のパーソナリティにしっかり寄り添うことで成立する稀有な共演でもある。そんな貴重なライヴを観るべく集まったオーディエンスも、開演前は特別な一夜の幕開けに落ち着かない様子だった。

暗転とともにまずはカルテットのメンバーが登場し持ち場についた後、ピンスポに導かれるように姿を表す山崎。恭しく一礼し、演奏の準備を行う。そんな彼に対していつもより客席からの拍手や声援が控えめなのは、やはり会場の空気がいつもと違ってどこか堅苦しいからだろう。一曲目は「月明かりに照らされて」。カルテットが奏でるアンサンブルの音が心地よいのは当然だが、その中で明らかにいつもと聴こえ方が違うのは山崎のギターだ。同じ弦楽器なのにカルテットとはここまで響きが違うのかと、その音色は硬質で尖っているように感じられる。しかし、そんな印象は彼の歌声によってあっという間に打ち消されていく。そして、バンドでも、弾き語りでも、ここまで彼が唄う、という行為そのものを楽しんでいるステージは見たことがない。カルテットの演奏に安心して身を委ね、気持ち良さそうに唄い上げているのだ。そしてその歌声には、父性を思わせるような大らかさと無自覚な艶っぽさがある。数年前、初めてカルテット形式のライヴを行った時の彼は、厳かな演奏や格式の高い会場の空気に飲まれていたものだった。着なれないスーツと足元の革靴もどこか窮屈そうで、それでも自分らしくあろうとするので精一杯だった当時とは明らかに様子が違う。そしてその後も「品のないMCで格式の高さを超えられるか」とジョークを飛ばし、緊張気味の客席をリラックスさせようとする気配りまで。何よりも本人がライヴを心から楽しんでいる証拠だ。


山崎の弾き語りにアンサンブルが優しく寄り添う「星に願いを」、チェロの低音とともに歌声が会場の隅々まで行き渡る「あじさい」、楽器を持たず唄うことに専念する「コイン」。さらにイーグルスのカヴァー「DESPERADO」。どれもオーチャードホールの格式の高さに見劣りしないカルテットとの見事な共演だが、そのぶん山崎のMCはいつも以上に砕けた内容であろうとしていた。家族全員で胃腸炎にかかったこと、大雪で山手トンネルに閉じ込められたこと、そしてカルテットメンバーにまつわる面白ネタで1年を振り返る。ツアーとともにあった2018年が、それだけ彼にとって充実していた1年だったということだろう。

ドラマチックかつ壮大なスケールに心が震えた「僕はここにいる」をはじめ、ピアノの弾き語りで披露した「ツバメ」「花火」「One more time, One more chance」。そんな彼の代表曲から生まれ変わったかのような新たな息づかいを感じる。さらにカルテットとの即興演奏がジャムセッションのようだった「水のない水槽」、ループマシンとストリングスの融合が斬新な「紛失」を経て、ライヴは後半戦へ。「Fat Mama」からは客席も総立ちとなり、いつもの山崎のライヴの光景を挟みつつ、突如被り物で登場した服部氏と「セロリ」を共演したり、ステージに用意されたテーブルからグラスを倒さずクロスを引き抜く芸を披露したりと、千秋楽ならではのサプライズに会場は大いに沸いた。


さらに「晴男」の大合唱で本編を賑々しく終えたものの、アンコールの拍手が鳴り止まず再び登場した山崎。その顔は満面の笑みに溢れていた。いつも思うことだけど、ステージ以外でこんな無防備で無邪気な笑顔を人前に晒す彼を見たことがない。しかも今日の笑顔は格別だ。それだけ本人もライヴに手応えを感じているのだろう。そんな彼の横顔を見守るカルテットのメンバーたちも嬉しそうだ。そしてアンコールは自分の息子のために山崎が作ったという仮面ライダーベルトの話で親バカっぷりを披露したものの、ラストは「ア・リ・ガ・ト」でキレイに幕を閉じられた。

二児の父である今の山崎が、音楽活動のみならずプライベートも充実しているのは間違いないだろう。ただ、彼がそこから得たものは安定や幸福といったありふれた言葉で片付けられるものではない。むしろこの日オーチャードホールで観たのは、これまで彼にとって自己解放やコミュケーションの手段でしかなかった音楽が、自分以外の誰かにとって福音をもたらすもの――つまりゴスペルに昇華されている光景だった。つまり、彼はこの日、またひとつ新しい音楽の扉を開けたということなのかもしれない。その扉の先にあるものは、果たしてどんな歌なのだろうか。今から次のアルバムに期待したい。


文=樋口靖幸


Set list
01 月明かりに照らされて
02 メヌエット
03 星に願いを
04 あじさい
05 コイン
06 やわらかい月
07 DESPERADO(カヴァー)
08 アンドロイド
09 僕はここにいる
10 ツバメ
11 花火
12 君の名前
13 One more time, One more chance
14 水のない水槽
15 紛失
16 Fat Mama
17 ドミノ
18 セロリ
19 晴男

Encore
01 道
02 Stranger(カヴァー)
03 お家へ帰ろう
04 ア・リ・ガ・ト

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