【Live Report】
THE YELLOW MONKEY SUPER メカラ ウロコ・29 -FINAL-
2018年12月28日at 日本武道館
あまりにも濃密な夜だった。
あの夜から時が過ぎ、年もまたぎ、2019年の日常が始まっている。が、12月28日にTHE YELLOW MONKEYから受けたものの重たさは、腹の奥底にドスーンと沈殿したままだ。あれは4人が新たなる戦いに向かっていくための夜でもあったと思う。
「また今年もこの日を迎えることができました。FINALなんて、皆さんがヒヤッとするような冠がついてますが、あまり気にしないように。心の汚れは今年のうちに! 心の大掃除を一緒にしてください!」
吉井和哉はそう言ったが、〈メカラ ウロコ〉のファイナルというタイトルには、彼ら自身がこのライヴに対してひとつの区切りをつける意志が込められていたようである。それは後半の、以下のMCで明らかになった。
「1996年に〈メカラ ウロコ〉を始めましたが……これからもどんどん先を見て、もっとたくさん曲が増えていくと思うので、1回こういう忘年会みたいなものを、〈メカラ ウロコ〉という名前をやめてみようと思いました」
焦点がいくつかある。いつもレア曲が多く演奏されるこのライヴだが、今回は方向性がかなり明確に表れていた。演奏されたのは本編18曲、アンコール6曲の、全24曲。このうち、初期のアルバム群――3rd作『jaguar hard pain 1944-1994』(1994年)までの楽曲だけで、なんと11曲ある。これには「SUCK OF LIFE」「アバンギャルドで行こうよ」「悲しきASIAN BOY」などの定番も含んでいるが、それ以外はいずれもアルバムの中のディープな曲。ここにアンコール1曲目で吉井が「インディーズ時代からやってて、レコーディングもしてない曲をやります。知ってる人、いるかな?」と言って唄ったサイケデリックなバラードの「毛皮のコートのブルース」も入れると、セットリストの半分が初期に作られたナンバーだったことになる。
もうひとつは、序盤に敷き詰められたアルバム『8』(2000年)からの5曲だ。開演SEのエディット・ピアフ「愛の讃歌」に続き、ベートーヴェンの第九の「歓喜の歌」のあと、サングラス姿の吉井が「ジュディ」を、続いて「サイキック№9」を唄った時、心に緊張が走ったファンも多かったはず。この2曲は『8』の、そして2001年1月、活動休止前の〈メカラ ウロコ・8〉のド頭と同じ並びだからである。
で、あともうひとつは、2曲の新曲である。これについては記事の後半で触れる。
というわけで、最初は主に『8』の世界が支配していた。3曲目に3rdからの「A HENな飴玉」、1st『THE NIGHT SNAILS AND PLASTIC BOOGIE(夜行性のかたつむり達とプラスチックのブギー)』(1992年)からの「Oh! Golden Boys」をはさみながら、次は再び『8』からの「STONE BUTTERFLY」「DEAR FEELING」「GIRLIE」と3連発。引きずるようにヘヴィで、胸をかきむしるようにハードな曲が続く。途中からは20人のストリングス隊が加わり、その音の重厚さもあって、口の中がどんどん乾いていく。
「今夜はファイナルということで、『8』の頃の、わりと不穏な曲を持ってきちゃおうかなと思いまして。どの時代も、商店街というか、アーケードみたいな曲ばかりで、いつの時代も今っぽくないですけど(笑)」
わりと不穏、どころではない。なにせオーディエンスはそのアルバムの前から現在までのストーリーの流れがわかっているのだ。そしてそれは初期の、バンドがなかなか報われなかった時代についても同じくである。
「売れる前の、もっと商店街な曲、シャッター通りな感じの曲をやろうと思います。でも閉まってるはずのシャッターが開いてたらすごくうれしい、みたいな(笑)。次は商店街の入り口で必ず開いている店みたいな曲をやろうと思います」
そう言って唄われた「This Is For You」はこれまでに演奏されることも多かったし、開放されるような曲調もあり、客席にちょっとなごむ空気があった。歌の最後に吉井が、そばに寄り添ってきたギターのEMMAに向けて、♪This Is For 英昭~、と唄ったのも会場の雰囲気を柔らかくした。
それにしても「シャッター通りな感じ」とは、じつに言い得て妙である。アングラで、トラウマ的。うらぶれた、すえたような匂いのする歌。初期のこのバンドは、まさにそんなイメージだった。25年前、ライヴハウスで……正確な言い回しは覚えていないが、LOVINと呼ばれてばかりだった吉井が客に「ちょっと古くさい感じのロックバンドですけど」と断っていたのを思い出す。
今夜の軸は、そんな初期と、『8』の頃なのである。やや強引なまとめ方を許してもらえるならば、この夜のメニューの主体は、彼らが自信と不安のバランスに苦しみながらも前に進もうとしていた時期の歌だったのだ。
セットリストは2nd『EXPERIENCE MOVIE(未公開のエクスペリエンス・ムービー)』(1993年)からの「DONNA」「仮面劇」と進み、その深みに武道館の中の空気が再び乾いていく。「やっぱりシャッター通りの曲はリアクションがアレですね」と吉井。
このあとには笑えるMCがあり、ギターのEMMAに「再集結後、LOVINと呼ばれるのを恥ずかしがってるよね?」と指摘された吉井がひるんだりするなど、4人のなごやかで朗らかなムードは健在だった。豪勢な衣裳に触れてもらえたHEESEYもうれしそうだ。しかし演奏自体の緊張感はひとつもゆるまない。「次はシャッター通りの曲……THE YELLOW MONKEYのコアな部分を聴いていただきたいと思います」と前置きされたのは「遥かな世界」。華やかに高揚するのではなく、沈み込むようなミディアム~スロー系が多い。今回の〈メカラ ウロコ〉には格別の重たさがあった。
聴きながら、僕はこの3年間を反芻していた。アリーナやドームでのライヴは代表曲中心の構成ではあったものの、ところどころで彼らなりのこだわりや重要な意味合いを持つ曲があった。再集結後の最初のツアーの1曲目が「プライマル。」だったのは『8』からの物語の続きを示していたし、横浜アリーナの公演ではバンドが春を迎えた〈FIX THE SICKS〉、破綻する端緒となった〈PUNCH DRUNKARD TOUR〉、終焉を迎える前の〈SPRING TOUR〉の3つの時期が念頭に置かれていた。また、同じく2016年の秋のホールツアー〈SUBJECTIVE LATE SHOW〉、冬の武道館での〈メカラ ウロコ・27〉、それに翌2017年秋のファンクラブツアー〈DRASTIC HOLIDAY〉でもレアな選曲がポイントだった側面がある。
しかし今回の(やはりファンクラブ限定でチケットが販売された)〈メカラ ウロコ・29〉は掘り下げ方が徹底されていて、それには自分たちの根っこを、出自を白日の下にさらそうという意志があったと思う。で、そこでキモになったことのひとつにはハングリーさもあったのではないだろうか。サブスクでデビューアルバムから飛ばさずに聴き、「記憶が蘇った」という吉井は、その立ち返った中でも、精神がことさら不安定で、先行きが見えなかった初期と『8』の時代の感覚に今一度向き合っておきたいという思いが生じたのではないかと思うのだ。
後半は中期以降の曲も交じり、そんな中、「I CAN BE SHIT,MAMA」から続くように新曲「天道虫」がプレイされる。このスリリングなグルーヴは今の彼らの真骨頂と言っていいだろう。演奏後に吉井は「〈メカラ ウロコ〉で本編に新曲が入ったの、初めてじゃないかな」と言った。
そしてクライマックス。「今日は冬と向かい合う日なのではないかと思ったので、この曲をチョイスしました。113回、必ずやった曲です」……そう言ってパフォーマンスされた本編ラストの「離れるな」は、骨の髄までしみた。アウトロで2本のギターがハモる。113本とは、そう、先ほども触れた〈PUNCH DRUNKARD TOUR〉のことである。
またも口の中が乾き、その奥に苦いものがこみ上げながら、THE YELLOW MONKEYというバンドの真髄を感じた。
アンコールでの「真珠色の革命時代〜Pearl Light Of Revolution〜」の後半、彼がストリングス隊の前で指揮をしたシーンには、初回の〈メカラ ウロコ・7〉を想起したファンもいただろう。そして、ライヴの最後はもうひとつの新曲「I don’t know」だった。切なさや苦みが混在した、メロディアスなロックナンバー。今夜演奏された再集結後の曲は「天道虫」とこの曲だけという徹底ぶりだったが、しかしこの2曲にこそ、これからに向かうバンドのパッションが集約されていたのではないかと思う。
この「I don’t know」の演奏前に、4月17日にリリースが予定されている通算9枚目のアルバム『9999』について吉井が触れた。
「すごく荒削りな部分もあります。でも、このバンドでしか鳴らせない音が詰まってると信じています」
「8枚目から9枚目まで、長かったけど、楽しみに待っててください!」
吉井によると、このアルバムでは「このバンドが19年間で失っているもの、失ったけど身体にしみついたもの、これから待ってる過酷なこと」が意識されているという。ロサンゼルスでのレコーディングには4人の他にはスタッフをひとり連れていっただけとのことで、その丸腰で臨むような姿勢にも、先ほどのハングリーな時期を思い起こすべきという意志があったのではないだろうか。ギリギリのところで音を鳴らすしかなかった頃のバンドの像、とでも言おうか。
ともかく、次へ向かう意志を表明し、過去へのケリもつける。この夜の彼らには、そんな気持ちがあったように思う。
そして終演後に掲示された〈30 THE YELLOW MONKEY 2019.12.28〉という文字にも、やはり先を見つめるバンドの姿を感じた。そしてもちろんその前に、4月発売のアルバムと、同月からは全国アリーナツアーが予定されている。
人間、そしてバンドは、長く続けていれば、たくさんのことがイヤでも積み上がっていく。どうしようもないことで、それは先に向かおうとする際には重荷でしかなかったり、面倒なものだったりもする。THE YELLOW MONKEYもここでそれらに区切りをつけるタイミングだったのかなと思う。
それにしても……濃すぎる夜だった。僕は発売中の『音楽と人』本誌で、来たるべきアルバムを予想して「3年、4年……いや、19年分? もっと言えば4人が生きてきた50数年分か? それだけの時間の蓄積から生み落された音なわけで、それが深く、重くなるのは当然な気がする」と書いたが、この夜のライヴを見て、その思いはさらに強まった。
ともかく今回の12月28日の夜は、まさに〈メカラ ウロコ〉の総決算のようだった。
写真(メイン)=有賀幹夫
文=青木優
Set list
01 ジュディ
02 サイキック No.9
03 A HENな飴玉
04 Oh! Golden Boys
05 STONE BUTTERFLY
06 DEAR FEELING
07 GIRLIE
08 This Is For You
09 DONNA
10 仮面劇
11 遥かな世界
12 月の歌
13 薬局へ行こうよ
14 I CAN BE SHIT, MAMA
15 天道虫
16 甘い経験
17 SUCK OF LIFE
18 離れるな
Encore
01 毛皮のコートのブルース
02 街の灯
03 真珠色の革命時代〜Pearl Light Of Revolution〜
04 アバンギャルドで行こうよ
05 悲しきASIAN BOY
06 I don’t know
発売中の『音楽と人2月号』ではTHE YELLOW MONKEYの2019年を考察するテキストを掲載中! こちらよりチェック!