音源のありようって、これからも大きく変わっていく気がするし、それも面白がるしかないんだよって思ってるから
今、すんごく嬉しそうに語ってます。ほんとに当時の感覚に戻ってるんだなって半ば呆れるくらいの(笑)。
「あはははは! もうオジサンなのに、少年になっちゃうんだよね。そうそう……でもオジサンだからこそ、ある種の父性とか母性っていうものを僕らの世代は持ち始めてるんだと思うんですよ。若いバンドもいっぱい出てきてるし、さすがに〈俺たちだけが現役だぜ!〉って感じでもないし」
それ本気で言ってたらマズイよね。
「ヤバいでしょ(笑)。フェス出たらそりゃ若いバンドがいっぱいいて、『中学生の時にアジカン聴いてました!』って言われるしね。〈いや、最新のも聴いてくれよ!〉って思うけど(笑)。でもそういう意味では今、どんどん仲間が増えてる感覚があるかな。世代が広がって音楽の仲間が増えてる。佐野元春さんが『ミュージシャンはみんな仲間だ』っておっしゃってたけど、それは俺もそう思う。今まさに楽器を持つ子たちも将来的な仲間かもしれないし、『こっちに来いよ』っていう佐野さんの呼びかけがすでに届いてる子たちもいるだろうし。子どもじゃなくてオジサンたちにもね、みんな子育てが始まると一旦は音楽から遠ざかっちゃうけど、それでも『戻っておいでよ』って言いたいし。そういう、いろんな世代に対する眼差しっていうのは自分でも自然に変わってきたと思う」
なるほど。すごく素朴な質問ですけど、なんで今、そんなにウェルカムでオープンなんですか。
「え、なんででしょう? うーん……」
いや、別に誰かと闘えって言ってるわけじゃないけど。さっきからやたらとオープンマインドな発言が多いし、そこに無理も嘘も感じられないから。
「あー、音楽好きなヤツとはあんまり争点が見当たらないんだよね。もっとパブリック・エネミーみたいなのが他にいるから(笑)。こっちで争ってる場合じゃない。なんかみんなで村と村の戦争してる間に、より広い地域がダメになっていく、みたいなことになりかねないから」
そうね、ちょっとした世代の差、ルーツの違いで対立してても仕方ないっていうのはある。
「そうそう。たとえばロックとヒップホップがいがみ合ってもしょうがないし、それはまったく何の得にもならない。いいものはいいし、面白い人は面白いから、お互いフォローアップしてくのが一番いいんじゃないかなと思っていて。そういう無用な争いをするほどゆとりないでしょ、みんな。いいもの作んなきゃいけないし、かと思えば社会的な圧もあるし、ひとりの市民として考えなきゃいけないこともたくさんあるし。気に食わないことに言及してる暇ないよ、みたいな感じ」
今回の歌詞もそうで、ネガティヴな見方を極力排除してますよね。生きていれば世の中のどうしようもなさも見えてくるんだけど、そこに触れるのはほんの一瞬。
「ほんとそうですよね。もちろんアルバムを聴いてもらうと、だいぶ……〈これはアイツのことかな?〉っていう(笑)、そういう表現もあるんだけど。いつでも含んではいたいと思うんですよ、社会を。でもこの曲に関してはこのぐらいのさじ加減のほうがいいなと思って。言いたいことは胸の中にはたくさんあるんだけど、そこで時間使って闘ってる暇がない。スルーこそ最大の攻撃っていうか、構っていたくない。もっと他に面白いものがあって、そっちをフックアップしたり一緒に何かしたいし、自分も成長しなきゃだし。そう考えていくと……知らんヤツは知らん。〈滅びよ!〉って思ってるだけ」
思ってはいるんだ。
「はははは! 思ってはいる。でも言っても面倒くさいじゃないですか。敵が増えるだけで。そうじゃないよなって思ってる。もちろん抗わなきゃいけないことにはちゃんと抗うし、自分からこう思うって発言する時はちゃんと出ていく。ちゃんと炎上させて、責任をまっとうするつもりだけど。でも、別に人に見せなくても大丈夫なこともあって。ファイティングポーズって、闘うべきタイミングで出せばいい。それ以外は楽しくやらないと、こっちが疲弊してくというか」
音楽を無駄に汚したくないというか、音楽として出すのであれば、っていう自制が強く働いているんですね。
「うん。気持ちの問題。あとそこは書き方の問題でもありますよね。この曲だったら、社会問題もわりと皮肉っぽく、何行かに込めておくだけ。基本的にはみんなのポジティヴな未来に対するフィーリングとか、エネルギーを呼び起こすような1曲にしたかったから。そんなに具体的に書かなくてもいいかなっていうのはあった。言葉って難しくて、別にたいしてシリアスなこと書いてなくても、音楽になると読み手はかなり深刻に受け取ったりするところがあって」
くくくく。特にゴッチはそうでしょう。
「そうなんですよ、バイアスがすごいから。あはははは!」
自分から言い始めたことなのに(笑)。
「だから毎回トライ&エラーで、どのくらいの言葉で書くのが一番ポップ・ミュージックとして機能しつつ、みんながハッとするものになるのかなって。その塩梅は自分でも探りながらやってくしかないですね。俺だってそんなね、超ド級のプロテスト・ソングを作りたいってわけじゃないから(笑)」
わかりました。あと、最後にアルバムのヒントも欲しいんですけど、最初はギターポップ、パワーポップに寄せるつもりだって話してましたよね。
「あ、でも基本的にはこの〈ボーイズ&ガールズ〉みたいなフィーリングのアルバム……僕は〈ボーイズ&ガールズ〉もパワーポップだと思ってるから。まぁパワーポップと称していいのか、ギターロックと称していいのか、そういう感じのロックを、いい音で録った1枚になると思う。でもたくさん録っちゃったから、たぶん2枚組になるんですよ。しっかりアジカンらしいパワーポップ、ギターが鳴ってるアルバムが1枚と、わりとバラエティのあるもう1枚っていう」
へぇ……2枚組って久しぶりに聞いた気がする。
「そうですよね。うん。もちろん1枚に入れるっていう選択もあったんだけど、Spotifyとかアップル・ミュージックで17曲通して聴く奴いないだろう、みたいな(笑)。だったら10曲以内でひとつの手触りにフォーカスしたものが1枚、それ以外のプレイリスト的な1枚、っていうふうに。そうじゃないとこの時代に耐えられないと思う。音源のありようって、これからも大きく変わっていく気がするし、それも面白がるしかないんだよって思ってるから」
うん、素直にそう思っているのは伝わります。
「そうですね。いいのか悪いのか、アジカンは今わりとヘルシーな季節が来ていて。問題があるとすれば、病んでるヤツのほうがハラハラして面白いっていう見方があることで――」
あ、最後はその話に戻るんだ(笑)。
「そうそう(笑)。でも違うところでちゃんと悩んでるし、違うところで闘ってるし。変わらないものはちゃんとあるから。それが響いたら嬉しいなって感じですね、アルバムは」
文=石井恵梨子
撮影=藤原江理奈
ヘアメイク=田 有伊
スタイリング=岡部みな子