諦めずにやるのは正しいと思うけど、限界を感じたら、その時間は別のことに向けたほうがいい
いつぐらいからそうするようになったんですか?
「25(歳)超えてくらいかな。一番大きなきっかけは、アルバイトしてた時だと思うんですけど。食い扶持は稼がないといけないから、その時間が絶対必要だってわかってるんだけど、ちゃんと音楽でお金もらえたら最高なのになって、バイトしてる時間をすごく不毛に感じた時があって。だったらアルバイトしてない時間に自分が感じられることやできることは、余すことなく全部感じ取りたいって思ったんですね。誰かと呑みに行くのもそうだし、帰ってから観る映画1本もそうだし、そこで湧き上がった感情をしっかり自分の中に留めておきたいなって。それから、自分と向き合うようになっていった気がします」
でもせっかくバイトから解放された時間でもあるのに、ずっと何かを考えたり、感じ取ろうとしたりって、疲れちゃいそうですけど。
「ああ、どうなんだろう。たぶん、休むのが下手くそなタイプなんですよ。何もしてないのが嫌というか。何もせず、ぼーっとする時もあるんですけど、それも意識的に、今日は何もしないようにしようって思わないとできなかったりして。ずっと頭を回して、物事を考えてないと嫌で。で、何かを受信して、受信したことを何らかの形で発信できないと嫌で、っていうのがずっとあって。でもこれは小さい頃からの趣味みたいなもんなんで、苦痛でも何でもないんですけど」
むしろ思考を動かしてないと嫌だって感覚なんですね。
「そうですね。たとえば自分が何もしてない間に誰かが楽しいことをしてたりとか、何かを生み出してたら、嫌だなって思うんですよね。単純に悔しいじゃないですか。楽しいことやってるなら俺もやりたい!っていう気持ちに近いかもしれないです。だったら、同じぼーっとしてるでも、映画1本観ながらぼーっとしたいし、座ってるなら本読んでたい、ケータイいじってる時間があるならもっと他のことに目を向けたり考えたり、1曲でも多く音楽を聴きたいとか……たしかに今自分で喋ってて窮屈だなって思えてきました(笑)」
あははははは。
「でも趣味に近いものだからノンストレスでできてるし、僕にとっては物事を考えたりとか、受信して何かに還元していくことに、楽しさを感じているので」
どうしてそこまで自分のことを常に考えるんでしょう。
「それはコンプレックスですね、完全に。自分はまったくと言っていいほど天才肌ではないし、人より勉強ができたわけでもない。なんかね、全部学年で4番目とか5番目なんですよね」
ああ、なるほど。
「できなくはなかったけど1番じゃない、っていうのはすごく自分の中でコンプレックスで。基本的に自信がない人間なので、自分が堂々とするためには、その裏付けが必要なんですよ。そのために、これだけやったんだから、じゃないですけど、そういうのを持っていたいというか。自分はできないって自覚してるんだったら、そのぶん人よりやらなきゃいけないってずっと思ってたし」
あの、私もコンプレックスがすごく強い人間で。だから自分のことを考えるのが嫌なんですよ。それは、嫌いな部分ばかり見えてきてしまうからで。
「ああ、わかります。難しいですよね。考えてるだけだと、負のほうに行っちゃうっていうのはあると思います。そうやって自分がどんどんダウナーの方向に堕ちていっちゃうのなら、別の何かで解消する方法を考えるしかなくて。気持ちっていうのは、固定されていなくて常に浮き沈みするものだと思うので、堕ちたんなら計画的に浮上することをしようっていうバランスの取り方。自分のことを考えて嫌だなと思って堕ちていく瞬間は僕もすごくあるので、気持ちを向上させる何かをどんどん取り入れるっていうのはすごくやりますね。それが僕にとっては運動だったり、音楽だったりするんですけど」
ステージに立っている時間。
「あの場所がやっぱり僕にとってかけがえのないものなので。一番ドキドキしたり、ワクワクしたり、希望を持てる瞬間っていうのは、音楽ですね。それにやったからって全部ができるようになるわけないんですよ。たとえば僕が今からものすごく練習して100mを10秒切って走ろうと思ってもおそらく無理なんです。それはやりゃできるって問題じゃないわけで」
うんうん。
「どれだけ頑張っても10秒切れないんだったら毎日走るトレーニングをするよりも、自分がもっと伸びる部分に目を向けたいなって思うんです。なんでも諦めずにやってみろよっていうことは正しいことだと思うけど、ある程度のとこまでって言葉をつけたい。それをやって限界を感じたり、落ち込むことがあるなら、その時間は別のことに向けたほうがいいなと。そのほうが楽しいじゃないですか」