強がって歩き出すけど、何度も振り返る。誰か来るかなと思っても、誰も来ない。いつもそんな気持ちなんだよ
『YOUNG MAN ROCK』というタイトルも、一見ダサいですけど、THE WHOの……。
「そうなんだよ(笑)。テーマがないから、タイトルに最後の最後まで悩んでさ。コータローくんに曲タイトルを見てもらっても、アルバムにはちょっと弱いね、って。とにかくなかなか浮かばなかった。そんな時、THE WHOの〈Young Man Blues〉を聴いてたのよ(笑)。じゃあ『YOUNG MAN ROCK』もあっていいんじゃないかな、と思って。スタッフに聞いたら『なんか……西城秀樹っぽくないですか?』って言われて」
はははは。まあ、そう言われるでしょうね。
「でも、その次の日がジャケット撮影だったから、タイトル候補をいくつか書いて、コータローくんに見せたの。そしたら『〈YOUNG MAN ROCK〉、面白いじゃん』って言ったから、そうか、これ面白いんだ!って、圧倒的な自信になっちゃって」
いいコンビですね(笑)。
「でも今回ばかりは最後まで不安でさあ……」
何がですか?
「俺、11月22日生まれなんだけど、おふくろは10月22日で、娘が1月22日でさ。昔から22って数字に縛られてる気がしてたのね。暗証番号には絶対その数字が入ってるくらい。だから昔から、俺は22枚しかアルバム作れねえんじゃねえか、って思ってたんだ。『Roll Up The Collectors』が22枚目で、武道館もあったし、いろんな区切りのような気もして。23枚目は作れないなって、どこかで思ってた」
そういう何でもないことに縛られること、ありますね。
「だからすごく怖かった。でもこれが出せたら、この先もあるかもしれないな、って思ってた。だからこのアルバムは、2回目のファーストアルバムのような気がしてるんだ。だから〈クライムサスペンス〉みたいな打ち込みを、そんなのもう古いよ、って言われようが、知ったこっちゃねえんだよ。多少モッズ道から外れてようが、自分がカッコいいと思ったことをやる」
歌詞もそういう意味ではさらに素直になった気がします。
「だって〈クライムサスペンス〉は、サスペンスドラマ見ようよって言ってるだけだから(笑)。Netflix入って、毎日見てるからね。面白いからお前ら見ろよ、って歌だから」
そういう中にポロッと出てくる「永遠の14歳」や「振り返る夜」は、加藤さんの今の心情をストレートに感じる曲です。
「いくつになっても孤独なんだよね」
それが出ていますよね。
「俺は別に親がいなかったわけじゃないし、普通の家で何の苦労もなく育ってきたけど、やりきれない感覚があるんだよ。もうすぐ58歳にもなるのにさ。あの時本当はこうしたかったなとか、バンドをこうしてたらどうなってたかなとか。そういうのを引きずるんだよ。コータローくんと正反対。イジイジして、いつまでも引きずってる。でも、そういうヤツがいっぱいいると思うんだ。俺はもうずいぶん歳とっちゃったから、その悔しさも孤独も薄くなってるけど、今、その真っ只中にいるヤツらが絶対にいるし、そういう気持ちを俺みたいに引きずってるヤツもいるよな、と思って。そんな連中に向けて唄ってる」
「振り返る夜」なんて、孤独を気取っちゃうくせに、誰かにかまってほしい気持ちがそのまま歌になってますよね。
「それが俺なんだよね。『今日、呑みに行こうよ』なんて、なかなか言えない。コータローくんの周りにはなんでいつもあんなに友達がいるんだろうって、ちょっと羨ましくもなる。強がって歩き出すけど、何度も振り返って、誰か来るんじゃないかなって思うのに、誰も来ない(笑)。いつもそんな気持ちなんだよ」
こんなにコレクターズへの愛を出しているのに?
「薄いんだよね」
はははは、表紙やっても薄い!
「AERAの表紙くらい飾んないとさ(笑)。いや、感謝してるんだよ。お前にもファンのみんなにも。でも自分の中の問題なんだよな。いつも何か足りない。でもそれが何なのかわからない。武道館でも満たされない。だから60歳の還暦記念でさいたまスーパーアリーナをやる、って本気で言ってる。ジュリーが70歳なら俺は60歳で9000人埋めてみせる(笑)。でもそれをやり終えたら、絶対に、東京ドームやんないと、ってなるんだよ。でドームやったら今度は、なんで2デイズじゃないんだ、って」
松本社長も大変ですね(笑)。
「でも本当にやらないと、世の中って認めないんだよ。やってみせて形にしないと、絶対にダメなんだよ。それを俺は知ってるっていうか、経験してきたから。なんでもいいから、夢は形にしないといけないんだよ。夢のままじゃ意味がないんだから。もっと言えば、その夢を形にしようと努力し続けることが、いつのまにか夢になってるんだから」
加藤さんは、自分の夢を叶えたいというか、そうすることでみんなを振り向かせたいんでしょうね。
「そうだね。1回ぐらい振り向いて〈認めろよモッズを〉って気持ちなんだよ。映画でも話してるけど、デビュー当時はモッズファッションをみんな知らないから、全然認められなかったんだ。あのシーンからブルーハーツが飛び出していって、社会現象になったじゃん? 彼らがモッズファッションで出てたら、みんなが同じファッションで、街中が『モッズってカッコいいね!』ってなると思ったんだよ。だから俺たちもデビューして、モッズがこんなカッコいいんだって見せたかったけど、モッズは全然流行らなかった。もちろん〈俺たちだけが知ってる〉っていう秘密性みたいなものがあったから、モッズやコレクターズが特別なものになった人も多いんだろうけど、俺の気持ちは違ってたよ。それをもっと多くの人に伝えて、振り向かせたかった」
それって、幼い頃から培われたものなんでしょうね。
「そうだろうね。子どもの頃から誰も俺には振り向いてくれなかったから。そもそも自分のポテンシャルがそんなに高くないから、成績だってトップになったこともないし、運動会で走れば真ん中ぐらい。中途半端だなって自分に腹立てて、何か1つぐらい自分がみんなを振り向かせることのできるものを作れるだろうって、自問自答しながらずっときたから」