ビートたけしが書き下ろした恋愛小説『アナログ』を、二宮和也主演、波瑠ヒロインで映画化。手作り模型や手書きのイラストにこだわるデザイナーの水島 悟(二宮和也)は、自らが内装を手掛けた喫茶店「ピアノ」で、携帯電話を持たない謎めいた女性・みゆき(波瑠)と偶然出会う。連絡先を交換せず、毎週木曜日に「ピアノ」で会う約束を交わし、ゆっくりと関係を深めていく二人。だが、想いを募らせた悟がプロポーズすることを決意すると、みゆきは突然「ピアノ」に現れなくなる――。“好きだから、会いたい”、そんないつの時代も変わらない“アナログ”な想いを描く、懐かしくて新しい恋愛映画。制作のきっかけやキャストの魅力、撮影秘話などを井手陽子プロデューサーに聞きました。
(これは『QLAP!2023年10月号』に掲載された記事です)
制作のいきさつや本作で描きたかったこと、主演の二宮くん&ヒロインの波瑠さんの魅力とは?
原作は、2017年に発売されたビートたけしさんの恋愛小説。たけしさんと長年交流があるタカハタ監督が原作を読み、「ぜひ映画化したい」というところから企画がスタートしました。少し前に書かれた小説ですが、主題となっているのは“時間をかけて築いた関係の温かさ”や“好きな人にただ会えることの喜び”という、いつの時代になっても変わらない愛や人間関係、人生における本質的な部分。映画化する上でも、その本質をどう描くか、コロナ禍を経た今だからこその描き方があるのではないか、試行錯誤をしながら脚本を組み立てていきました。また、たけしさん流のユーモアや人情も原作の魅力であり、タカハタ監督がこだわった点でもあります。原作をリスペクトしながらも監督自身の個性が加わり、映画としての新しい『アナログ』になったんじゃないかと思っています。
主人公の悟を演じるのは、タカハタ監督とはTBSのスペシャルドラマ『赤めだか』で一緒に仕事をしており、信頼を置く俳優でもある二宮和也さん。監督は原作を読んでいるうちから、「悟は二宮さんしかいない」と確信していていたようです。悟の、自分のポリシーを人に押し付けるわけではなく、自分の中でこだわりを持って動くところが、二宮さんと通じる部分があると思っていて。二宮さんは本当に自然体で悟を演じられていたし、トップアイドルでスターでもあるのに、どこにでもいそうな誰もが共感できるキャラクターになっていたのは、さすがの一言でした。
悟と恋に落ちるヒロイン・みゆきを演じる波瑠さんは、クラシック音楽に携わっている人が持つ品の良さを兼ね備え、男女問わず魅力的だと感じる女性を説得力をもって演じられる稀有な存在。みゆきはミステリアスでありながら純真さを感じさせる難しい役どころでもありますが、波瑠さんそのものの魅力とみゆきのキャラクターがぴったり重なったと思っています。


撮影で印象的だったことや、二宮くんのアイデアを生かしたシーンとは?
悟とみゆきは、最初の撮影で肩を並べて座る姿を見て、スタッフみんなが「これだ」と思ったほどのハマリよう。二宮さんと波瑠さんは芝居では初共演ですが、バラエティーでは共演経験もあり、ちょうどいい距離感で撮影が始められたのではないかと思います。撮影の合間は雑談するなど和やかなムードでしたね。
二宮さんはオンとオフの切り替えが本当に素晴らしくて。さっきまで笑って話していたのに、カメラが回ったらすぐに涙を流したりと、瞬時に感情を持っていく力がハイレベル。シーンの解釈力も高く、台本にない場面でも自ら監督にアイデアを提案されていたりもして。後半、悟がみゆきとの写真を携帯で見返すシーンがあるのですが、これも二宮さんのアイデア。「2人でいた時間が、悟にとってどんなに大切かが伝わるのでは?」とご提案いただき、それに監督もスタッフも賛同して急きょ入れ込むことになりましたが、後々感情に効いてくる重要なシーンになったなと思います。
また、私が印象に残っているのが、監督が波瑠さんに伝えた「セリフが詰まったりしても、僕はウェルカム。詰まったその間がリアルです」という言葉。作品を見る方にも、フィクションとノンフィクションの間を行くような繊細な2人の恋模様を感じとっていただけるとうれしいです。

脇を固める桐谷健太さん、浜野謙太さん、なにわ男子・藤原くんの現場での様子を教えてください。
悟と桐谷健太さん演じる高木、浜野謙太さん演じる山下の親友3人でのシーンは、本当に昔からの友達のような空気感でした。監督は台本にはない自然な芝居を引き出すために、台本の内容を演じきっても、カメラを止めずに長回しにして芝居を続けさせるスタイルで。3人のシーンはいつまでも見ていたくなるようなおもしろさがあり、それぞれが自由に楽しみながら芝居をしていて、撮影素材はたっぷりあったのですが、泣く泣くカットしています。
悟の後輩・島田役を演じるのは、なにわ男子の藤原丈一郎さん。藤原さんは自分の撮影が始まる前日に現場に見学にいらっしゃるなど、とても真面目な方。最初は少し緊張している様子だったのですが、事務所の先輩でもある二宮さんが藤原さんを自然とキャスト陣の輪の中に入れてあげていて。撮影の合間には、現場にあったパターゴルフのゲームに二宮さんが藤原さんを誘って、一緒に楽しんでいたりもしましたね。ゴルフ未経験の藤原さんがうまくできずに場が和んだりもして。あと、いつものようにカットがかからないので、一生懸命に芝居をし続ける藤原さんに対して、二宮さんが「令和の喜劇王!」とねぎらっていた場面もありました(笑)。ご自身では意識されていないのかもしれませんが、藤原さんがなじめる空気感を作っていたし、藤原さんもみんなにかわいがられていましたね。
島田は、悟がみゆきに会えない時間をどう生きているかを印象付ける役どころであり、島田自身は悟に憧れて仕事への向き合い方など影響を受けるというキャラクター。もしかしたら芝居上だけでなく、藤原さんの中でもこの作品を通して二宮さんから学ぶことがあったかもしれないし、リアルな関係性が役柄にも生きていたのではないでしょうか。


文=室井瞳子
井手陽子(アスミック・エース)
いで・ようこ/1976年生まれ。千葉県出身。近年に手掛けた映画は、『サヨナラまで30分』『さがす』『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』『夜が明けたら、いちばんに君に会いに行く』など。
映画『アナログ』
(東宝、アスミック・エース配給/公開中)
監督:タカハタ秀太
出演:二宮和也、波瑠ほか
©2023「アナログ」製作委員会
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